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「翔ちゃん？」
固く閉ざされたドアを見つめたまま智くんの病室の外で立ち尽くす俺に、相葉くんが怪訝そうに声を掛けた。
返事もせずに呆然としていると、両肩を揺さぶられた。
「どうしたの！？
翔ちゃん！？」
相葉くんの顔に漸く焦点が合う。
「………智くんが…」
「大ちゃん…！？
大ちゃんがどうかしたの…！？」
「……さっき見えたんだ…」
「何が…？」
自分の言葉を確かめるように、相葉くんに言う。
「手がね…
白い手が見えて…
……指が…動いた」
「えっ…！？」
「動いたんだよ…！
智くんの指が……こんなふうに…！」
一転して興奮しながら指を動かしてみせる俺を、相葉くんが驚いて見つめた。
「ねえ、相葉くん…
あの夢ね、ただの夢じゃなかったんだよ！
智くんが会いに来てくれた…！」
「…翔ちゃん……」
「わかる！？
俺との約束を果たしに来てくれたんだよ…！？」
「…翔ちゃん、落ち着いて…！
先生からは説明あったの？」
俺は首を横に振った。
「まだ。
まだだけど、間違いないよ。
俺、見たんだもの」
相葉くんは閉められたドアをじっと見つめると、俺に言い聞かせるように言った。
「ここで待ってて。
スタッフステーションで聞いて来る」
彼の背中が足早に遠ざかるのを見送りながら、俺は昂揚する自分を抑えることが出来なかった。
あの鳶色の瞳が再び見られる。
あの唇からは懐かしい声が聴ける。
そう思うと胸がいっぱいになる。
ほどなくして、相葉くんが戻って来た。
表情が硬く、青ざめていることに一抹の不安を感じながら、彼の得てきた情報を待つ。
「翔ちゃん、取りあえず談話室に行こう」
「えっ？」
「そこで座って話すから」
「どうして？
何かわかったのなら、今ここで話してよ」
「いいから行こう」
俺は相葉くんに引き摺られるように廊下の先の談話室に連れていかれた。
その間も智くんの状態を聞いたが、彼は口を閉ざしたままだった。
各病室の設備が充実しているため、普段からあまり利用する人がいない談話室には、今日も誰もいなかった。
相葉くんは俺をソファに座らせると、自分は斜め向かいの独りがけのソファに腰掛けた。
「大野さんはどうだって？」
俺が改めて問うと、相葉くんの瞳が不安定に揺れた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月15日 17時
