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「えっと…」
一月十五日。
福岡の最終公演を終えた後の打ち上げの席。
立ち上がったもののなかなか言葉が出ない智くんに「リーダー頑張れ」と松潤の声援が飛んだ。
彼はひと回り小さくなった顔を綻ばせ、照れくさそうに笑うと、猫背をほんの少し伸ばしてスタッフや俺らの方をまっすぐに見つめた。
「…去年の夏に始まったツアーが今日で終わりました。
この半年の間…いろんなことがありましたけど、
今回のツアーほどみんなの結束を感じたことはありません。
素晴らしい仲間に出会えて幸せだなぁとつくづく思います。
最高のツアーでした。
本当に…本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる智くんに、その場が静まり返った。
智くんがゆっくり頭を上げて、俺らの方を見て困ったような顔をした。
「あれっ…？
俺、まともなこと言ったつもりだったんだけど…
みんな、どうかしちゃった…？」
さっきの落ち着いた挨拶とは打って変わって慌てている智くんの様子が、一瞬のうちに場を和ませる。
「…立派な挨拶でしたよ。
さすがリーダー」
ニノが言うと智くんは「なんか馬鹿にしてない？」と口を尖らせた。
「被害妄想だってば」とニノが彼の頬を突つくと、松潤が「そうだよ。ホントに立派だったからビックリした」と智くんの背中をポンポンと叩いた。
智くんが苦笑する。
「おまえらに褒められるのもどうなのよ。
俺のが年上なのに」
最後の挨拶を終えた智くんは、座敷の端の方の席に座った。
背中を丸めた彼がやけに小さく、俺にはその柔らかい笑顔の中に微かな寂しさが滲んでいるように見えて、胸が痛くなる。
彼の体調が優れないことはスタッフも必然的に知っていたが、これが本当の最後とは思っていない。
「夏までに元気になってまたやろう」などと声を掛けられては頷いている智くんの心情を思うと、やりきれなくなった。
智くんの指名で、松潤が音頭をとって乾杯をした。
苦労をともにしたスタッフ、出演者が役割の壁を越えて労をねぎらう。
完全燃焼した後のビールの美味さは半端ない。
ふはーっと息を吐きながらジョッキを降ろすと、隣の智くんが同じようにジョッキを降ろしたところだった。
見ると、唇の上に泡の髭が出来て、ジョッキの三分の一が既に減っていた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月15日 17時
