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智くんのかなりゆるい案内でぐるっと境内を見た後、社務所でお守りを選ぶ。
年明けに再開するツアーに向けて、みんなのお土産にするからと、智くんは、山犬の格好をした「お犬様」のお守りが付いた根付けを、メンバーとマネージャーの分として十一個買った。
ここで最初のロケは終了。
カメラが止まると、智くんは買ったばかりのお守りの一つを「翔くんの災難を除けてくれますように」と言いながら、俺に渡してくれた。
随行していた本田さんと瀬野さんにも一つずつ渡している。
それを見ていたプロデューサーが、微笑みながら言った。
「大ちゃんがあの大怪我から復帰出来て、本当によかったよ」
「ええ」
しかし俺は、あの憂いを含んだ横顔を思い出すと、手放しで喜べない。
あの時の彼の表情は、この平穏な日々がいつまでも続かないことを暗示しているように思えた。
俺が智くんを心配そうに見ていたせいか、プロデューサーが言った。
「この後、蕎麦屋さんで食事のロケだけど、大丈夫かな。
つらそうだったら教えて。
大ちゃんに聞いても『平気』の一点張りだから」
「はい、ありがとうございます」
智くんが本田さんにロングコートを着せられて、モコモコ状態で立っていた。
近寄ると、少しとろんとした目が赤く充血している。
顔も赤いので、額に掌を当てると、やはり熱が結構上がっているようだった。
「智くん、あなた、熱あるよ」
「大丈夫だよ。
あとは山を降りて、蕎麦食べるだけだって。
何だかいつも予約でいっぱいの店なんだってさ。
翔くんスペシャルに相応しいね」
「確かに俺は蕎麦大好きですけど、ホントに大丈夫なの？
熱出してる人にもてなされても気が引けるよ」
「大丈夫だってば」
「そんなこと言って、また震えてるじゃない。
そんなに寒い？」
「えっ？
寒くないの？」
俺は上り坂を歩いたり階段を上ったりして、もう寒くないのだが、智くんはこれだけの厚着をしているのにまだ寒がっている。
本田さんが心配そうな顔で、智くんの襟元にマフラーを重ねて巻いた。
ロボットみたいに厚着になりながら、朝来た道をケーブルカーの駅まで徒歩で下り、今度はそこから車で山を下りた。
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作者名：kotorix
| 作成日時：2012年1月2日 16時
