子犬2 ページ10
「ヴィクトル、寒い」
コートを掴んだままもぞもぞと身じろぐと、ヴィクトルは嬉しそうにコートを開いて俺をその中に迎え入れる。
「いやいや、中入りましょうよ」
「Aは寒がりだなぁ、このくらいの気温でこんなに冷たくなっちゃって」
「…ロシア語でしたっけ、さっきの。ってことはロシア人？」
「そうだよ、Aがロシアに来たら凍っちゃいそうだね」
ゼロ距離で会話を続けているが、よく思い出してみてほしい。ヴィクトルと俺は初対面なのだ。お互いスキンシップに抵抗がない、というかヴィクトルは好き好んでやっているようだが、それにしてもついさっき会ったばかりの人と何をやっているのだろうか。
完全に冷えた俺の手を取り、すりすりと撫でられる。手の甲をするっとヴィクトルの親指が通って、くすぐったさにふるりと震えた。
「んー、敏感だね」
「…？ 寒さに？」
「…感情には鈍感か」
「っくし」
いよいよ身体が震えてくしゃみが出る。其処でようやくヴィクトルは俺をコートから解放して、中へ入ろうと歩き出した。
「温泉あるんだろう？」
「ありますよ。露天もあるし、ゆっくり雪見ながら入ってきてください」
肩の雪を払いながらガラリと戸を引くと、寛子さんがひょこりと顔を出した。
「Aちゃん、もう終わったと？」
「ごめん寛子さん、これからなんだ。その前にお客さん連れてきた」
「Hi,ヴィクトル・ニキフォロフです。ひょっとして勇利ママ？」
「あらかっこ良か人やね〜勇利の知り合い？」
寛子さんはにこにこ人当たりの良い人だし、ヴィクトルもどうやら人たらしのようだし、ほのぼのと会話をする姿は和むけれど、ヴィクトルの容姿が旅館に不釣り合いで不思議な雰囲気だった。
マッカチンは俺の足に擦り寄っていて、文句無しに可愛い。しゃがんで撫でているとべろんと頬を舐められた。
「はは、くすぐったいよマッカチン」
「おやおや、ほんと毛色そっくりだね」
「っくし、」
くっついている姿を見てヴィクトルと寛子さんが笑うと同時にまたくしゃみが出て、ぶるっと身体が震えた。
「A、雪に濡れてそのままだろう？ 風邪引くよ」
「大変！ 雪かきは良かね、温泉入っといで」
「え、でも…」
まだ仕事中なのに、という言葉はヴィクトルに腕を引かれたことで紡がれることはなかった。
「A、一緒に入ろう」
「え？」
「ほらほら早く」
「え？」
そうしてそのままずるずると引きずられてしまう。ヴィクトル、場所知らないくせに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 566人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
