一面 ページ39
「ミナコ、聞いてくれ」
他に客も居ないミナコのスナックで、カウンターに突っ伏しながら呟く。出された日本酒のグラスをこつりと置いた。
晩御飯だとAに言われ、名前を呼ばれただけで高揚した気持ちを抑えて振り返る。傍に膝を付いてテーブルに料理を並べていくAの横顔と、細くて白い腕。目が離せなくて動けずにいたらその小さな口でまた俺の名前を呼んだ。こちらを見上げながら、きょとりとした顔で。
料理を口に運ぶAの周りには花が飛んでいるように見えて、幸せそうに噛み締める横顔が可愛い。
視線に気が付きこちらを向いた時の顔も可愛くて、箸を上手く持てるようになったのはAのおかげだと言ったらそれに対してふわりと笑った無垢な笑顔。普段あまりこちらに向けられることの無かった笑顔を見せられてしまっては、大人しく座っているなんて出来るはずもない。
あのまま隣に居たらまたAを抱き締めて、今度は本当に口付けて、そのまま押し倒してしまいそうな予感がした。
「だから此処に来たって訳？」
「うん……」
「呆れた、あの世界一モテる男、ヴィクトル・ニキフォロフがこんなに恋愛ベタだったなんてね」
一通りの出来事を伝えると、ミナコはやれやれとため息を吐いた。ちなみにミナコにはAへの思いを数日前に伝えている。今日みたいな事が以前もあって、相談する相手が欲しくて、堪らず打ち明けてしまったのだ。ユウコは家庭があるからこうして夜押し掛けるわけにもいかないし。
「Aが可愛すぎて生きるのが辛い……」
はぁ、と息を吐き出す。自分の言葉を反復しながら、余計に辛くなってしまった。
「可愛い……本当に、何だあの顔は…無垢で真っ白な笑顔で……かと思えば時々驚くほど官能な表情をするじゃないか…どうなってるんだ……恐ろしいよ、本当に。いや恐ろしいよりやっぱり可愛いんだけど…」
「……勇利には見せられない姿ね」
好きだと自覚してからこうなるのは早いものだった。何しろ一つ屋根の下、日中は滑りに出ていたとしても会わない日は無い。姿を見る度に更に気持ちを自覚し直して、繰り返して。とうとうこんな情けない姿になってしまったというわけだ。
非常に参った。今までだってそれなりに恋人は居たし、人並な恋愛はしてきたつもりだった。けれどこんなに振り回される恋ははじめてだ。振り回すのは俺の専売特許だと思っていたのに。それも、相手は無自覚に振り回してきている。厄介過ぎる。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
