自覚一人目 ページ36
「……はーー…」
Aがリンクを飛び出して行った後、思わずそのまま項垂れる。深いため息を吐いて、手をついていたリンクの塀に腕をついて、そこに頭を乗せた。
Aのあの表情。堪らなかった。演技はどうだったかと側まで滑り寄った時のあの表情。紅潮した頬に、薄く開いた唇、目が潤んでいて、眉がほんの少し下げられていて。誘っているような、恍惚とした妖艶な顔だった。
感動したと、見惚れてしまったと、言葉にしなくてもそう思ってくれているのだとわかる。それはむしろ言葉で貰うよりもずっと嬉しいものだった。心からそう思ったのだと、何よりも解るものだから。
嬉しい、Aが俺だけを見てくれていて。
嬉しい、俺の演技に魅了されてくれて。
嬉しい、そんな魅惑的な顔をさせたのは、俺なのだということが。
心臓が今でもうるさい。Aのあんな顔を見せられて平然としていられる訳も無い。触れたくて、もっとその顔が見たくて、もっと俺を求めて欲しいと思った。
だからキスをしようとしたけれど、その唇に触れる事は出来なかった。けれどあの真っ赤な顔は、今までの反応の薄さとは違う。添い寝をした翌朝に見たものよりも、もっと動揺の見える顔だ。それは少しずつ、Aは俺を意識し始めているという事。俺の触れ方に、俺自身気付かぬ内に滲ませた感情が混ざり始めていると、気付き始めたという事。
「ユウコ…さっきは、ごめん。気を悪くしただろう」
項垂れたまま少し離れた所にいたユウコに声をかける。思わず牽制してしまった事、大人気なかったと、謝罪の言葉を呟いた。
「それで恋人じゃないなんて、びっくりした」
ユウコの笑い声と足音が近付いてくる。あまり気にしていないようだ。
「俺も驚いたよ、スケート以外にこんな感情を抱くなんて」
いや、スケート以上だ。己より技術や表現力がある者に対して、悔しいとか、妬ましいとか、そんな事を少しも思わなかったかと問われれば、それは否だ。微かにでもそういった感情を抱くことはあったし、だからこそスケートに本気なのだとも思っていた。
けれど、ここまで深く胸に渦巻いた妬心は、はじめてだ。
「独り占めしたくなる…俺だけをずっと見つめて、感じて、言葉を紡いで、笑って欲しい」
「Aくんの事、好きなんだ」
「…好き、なのか…」
顔をあげて、今度は手で覆う。顔が熱い。ユウコをチラリと見ると、嬉しそうな顔で鼻を覆いながら親指を立てていた。
「…何か、でてるよ」
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
