意識 ページ35
思わずリンクを飛び出してきてしまった。
きっとまた間抜けな惚けた顔をしてしまっただろう、それでも言葉には出なかった己の感想を表情から読み取って嬉しそうに笑うヴィクトルの顔を見て、苦しくなった。顎を掬われてキスをされると思った瞬間、ドクンと心臓が一際大きく高鳴った。
「…何処の乙女だよ」
途端に、恥ずかしくなった。あんな綺麗な踊り方をする人間が、こんな自分に何を迫っているのかと思う一方で、昨日までの彼の態度とは微かに違う気がしたのだ。
ヴィクトルは俺の事をからかって遊んでいるだけ、そう思っていたし、そう思えるような触れ方だった。こちらの反応を見て楽しんでいるような。
だからいつも思わせぶりに、寸止めを繰り返しているのだと思っている。それに真面目に反応するのが馬鹿らしくて、平然としていようと思っていたのに。彼の触れ方は、たまに何処までが遊びなのかわからなくなる。
さっきだって、避けなければきっとそのまま唇がぶつかっていただろう。至近距離まで近付いたヴィクトルの整った顔と、高揚した表情が頭の中でぐるぐると渦巻く。
「あーーもう、っ、もう!」
がしがしと両手で頭を掻いて顔を覆う。何でこんなに振り回されなければならないのか。もう、こういう感情は要らないと思っていたのに。
「何やってんの、A」
突然名前を呼ばれてびくりと肩が跳ねた。横を見ると、走り込みをしている途中の勇利が息を切らして汗をかきながらきょとりとこちらを見つめている。
「勇利…」
「髪ぼっさぼさ、どうしたの?」
くす、と笑いながらこちらに歩んでくる勇利に、じんわりと胸が暖かくなる。勇利は不思議な人だ、安心する。
「って顔赤くない? 昨日一日姿見なかったけど、まさか熱でも」
「いやー、大丈夫ちょっと、ちょっとね」
慌てて手をぶんぶんと横に振り頭も振る。折角知られずに熱を下げたというのに、全然関係の無い火照りでバレるわけにはいかない。というより、本当に勇利にバレないように立ち回ってくれたのか、ヴィクトルは。
「もっとボサボサになってるよ」
目の前にやってきた勇利に、髪を撫でられて整えられる。安心する手だ。じっと見上げると優しい顔をした勇利が「なに?」と首を傾げている。「なんでもない」と笑ったけれど、これが例えばヴィクトルが相手なら、こんな風に黙って触れさせられないし、笑いかける事も出来ないだろう。
まだ、大丈夫だ。そんなよくわからない事を、確認した。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます!何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます!描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです!´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…w凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kaga | 作者ホームページ:https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時:2016年11月6日 21時