魅了 ページ34
「…かっこ良か…」
思わず声に出てしまった。
ヴィクトルが氷上で踊る姿をじっと見つめながら、胸が高鳴る。頬が熱くなる。
長い手が優雅に伸びて、指先まで感情が溢れていて。細い腰から繋がる脚が、まるで氷を自在に操っているかのように感じられた。目にかかる長い前髪から覗く表情はなんだか切ないようにも見えて、色香が漂う。人間の身体がこんなにも綺麗に見えるなんて。
彼の踊りを見た事はあった、と思う。幼少の頃に勇利や優子ちゃんと一緒に見たような記憶がある。けれどその薄れた記憶を強烈に上書きされるように、目の前で繰り広げられる踊りに釘付けにされてしまう。ラフな格好なのに、煌びやかな衣装が目に浮かぶようだった。
「A、どうだった？」
一通り滑った後、ヴィクトルがこちらに滑ってくる。少し息を切らしていて、汗が首筋に伝っている。
傍から見ていても演技の最中、疲れなんて全く感じさせなかったのに。そう思うとヴィクトルの凄さがより一層際立って感じられた。
リンクの壁を挟んで、目の前に居るヴィクトルがこちらを見つめる。スケート靴を履いているから、己との身長差が更に大きくなっていて、見上げる角度も大きくなる。
「俺の滑り、どう？」
もう一度聞かれ、なんと答えて良いものか、頭の中でぐるぐると考えてしまった。
格好良かった、綺麗だった、素敵だった、感動した、そんな月並みで陳腐な言葉しか浮かんでこない。でもそれを口にしたくはなかった。もっと違う、本当はもっとこんな言葉じゃ現せられないくらいの感情を抱いたのに。
言葉が出てこなくて、彼を見上げたり、目を逸らしたり、口を開いてまた噤んで、そんな事を繰り返していると、ついていた手にヴィクトルの手が重なった。
「…ありがとう」
「っ、へ？」
屈むようにして額をこつりと当てられる。重ねられた手が熱い。
「そんな顔されたら、どんな賞賛の言葉よりも嬉しくなってしまうよ」
囁かれる声は言葉の通り嬉しそうだ。彼の頬が紅潮しているのは演技後だからだろうか。ヴィクトルが「そんな顔」と言った自分の表情は、今どうなっているんだろう。
「最高にキスしたくなるような顔、してるよ」
頬を撫でられて、顎を掬われる。目が伏せられて、唇が近づく。
あ、される、と思った瞬間慌てて後ずさった。
「かっ、か、帰る！」
きっと真っ赤になってしまっただろう顔を隠すかのように、バタバタとリンクを後にした。
心臓が、ずっとうるさい。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
