妬心 ページ33
正直、大人気ないと思った。
足を慣らす為に何周か滑りながら、先程の自分の行動を思い返す。
ユウコと話し嬉しそうなA、そんな可愛い笑顔、俺には向けられたことが無い。可愛いと思うのに何故か見たくなくて、思わず目を逸らしてしまった。
その後も、靴紐を結ぶこちらを見つめるA。じっと俺だけを見てくれていることが嬉しくて堪らなくて、けれどその隣に居るユウコが気に食わなくて、一瞬目を細めて睨むように牽制してしまった。ユウコは気を悪くしていないだろうか。
ユウコは良い子だ。素敵な女性だと思う。なのに、どうしてだか、どす黒い感情が胸に渦巻いてしまう。己が知らないAを知っているユウコに、子供のように『ずるい』だなんて思った。
「…知らないな」
こんな感情、よく分からない。けれどこれは紛れも無く「嫉妬」なのだと、それは解る。散々愛だの恋だの演じておきながら、笑ってしまう程自分の中のその存在に戸惑っていた。
遡ると、リンクに入ってすぐにユウコがAに抱き着いた時だって、フェミニストを気取りながら本心では「早く離れさせなければ」なんて思っていた。Aに触れさせたくなかったからだ。
更に遡ると、熱に魘され夢現で寝ぼけたAが呼んだ名前。明らかに自分の名前ではなくて、そんな小さな事にも胸を焼いていた。
出会ってすぐのまだ知らないことだらけの人間に、こんな事を思うなんて。チラリとAを見ると、じっとこちらを見つめている。熱い視線に胸が高鳴った。
「本当、魔性だ」
あの可愛い子犬が、くるくると表情を変える様が面白い、最初はただそれだけの単純な動機。次第に己のスキンシップだけでは見られない表情を持つ事がわかってきて、それを全部見たいと思い始めた。けれど自分以外に向けられたそれを見ても、ちっとも嬉しくない事にも気が付いた。
「Aは一体俺に何をしたんだろうね」
今までこんな面倒くさい感情を持ったことがあっただろうか。ジャッ、と氷を削るブレードの音が響いて、それから着氷する。そのまま氷を鳴らしながら、ステップを刻む。身体全体で音と感情を表現しながら、指先にまで神経を張り巡らせて踊った。
Aは目を逸らさずにこちらを見つめている。そのまま逸らさないで、俺だけを見ていて。そんな事を特定の誰かに向けて思った事なんて、一度も無いのに。
『愛』をテーマにしたプログラムを滑りながら、己の内に燃え始めたそれに、ただ、戸惑っていた。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
