微かな ページ32
「Aくんが長谷津に帰ってきたって噂で聞いてて、昨日勇利くんからも聞いたんだ。会えて良かった」
優子ちゃんの笑顔は、安心する。優しくて暖かくて、包まれているような笑顔だ。この笑顔に励まされた事だって、何度もある。
思わず釣られて顔が緩んでしまったけれど、ふと振り返った時に目が合ったヴィクトルがふいっと顔を背けてしまったので、余程見るに堪えないだらしない顔をしてしまっていたのだろう。
「…ふふ」
「え？ なに？」
優子ちゃんがくすりと笑う。優子ちゃんまで笑う程の顔だったのだろうか。
「ううん、本当に仲良いんだなぁって」
「え、そうかな…出会ってからまだ三日とか四日とか、そんなんだよ？」
「時間は関係ないよ、そういうのは濃さだから」
濃さ。そう言われると確かに時間は短くても非常に濃いやり取りをしている。言葉のやり取りも勿論だが、ヴィクトルの場合は身体の触れ合いも多い。
「ね、ヴィクトルとどんな関係？ 恋人？」
優子ちゃんがこっそり耳打ちをするように聞いてくる。同性しか好きになれない嗜好を知っているからこその質問の仕方だ。
「違うよ」
「ええっ、あんなに仲良さそうだったのに？」
あんなに、というのは先程の助け起こし方の事なのか、その後、腰を撫でられ引き寄せられた事か、はじめのリンクに入る時に腕を引かれてた事か、その内どれだろう。
「からかってるんだよ、俺のこと。子犬ちゃんなんて呼んでくるし、もう一匹飼い犬が増えたとでも思ってるんじゃないのかな」
スケート靴の紐を手慣れたようにシュルシュルと巻くヴィクトルを遠目に見つめる。箸の持ち方を教えた時に触れた指は、細くて長かった。その指が、見惚れるほどしなやかに動いている。
立ち上がり、バサッと上着を脱いで現れたのは細い腰のライン。本当に何処までも彫刻のように綺麗だ。この肢体がどんな風に踊るのだろう。思わず見惚れて居ると、視線に気が付いたヴィクトルが一瞬目を細めて、それから嬉しそうに笑った。そのまま氷上に上がる横顔を見て思わず呟く。
「……変なの」
先程とは全然違う、いつも見ている笑顔だ。立ち上がる手助けをしてくれたあの時の妙な笑顔はなんだったんだろう。
首を傾げると、また優子ちゃんがくすくす笑った。
「威嚇してるヴィクトルの方が犬みたい」
威嚇。そんな事していただろうか。その言葉にもきょとりとすると、「からかってるようには見えないけど」なんて優子ちゃんが一層楽しそうに笑った。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
