もう一人の幼馴染 ページ31
「久しぶり」
ヴィクトルに連れられリンクに踏み入ると、もう一人の幼馴染が居た。音響の準備だろうか、コードを手に固まっている。
「…あの、えーっと」
こちらを見るなりぽかんと口を開けたまま微動だにしない優子ちゃんに頬をかく。誰だか気付いてもらえていないのでは。
「…っう、わっ！」
と思っていたら、突然浮遊感が襲う。高い天井が見えて、その後に背中に衝撃が走った。ズシンと鈍い痛みがあって、胸のあたりに暖かな感触。思わず詰めた息を、いてて、という言葉と共に吐いてからようやく床に倒れたのだと理解した。
リンクサイドのゴムシートが続く通路に突然倒れた理由、それを説明するかのように胸に埋められていた温もりが顔をあげた。
「おかえり！ Aくん！」
優子ちゃんだ。昔と同じように、表情豊かで元気な優子ちゃん。優しい幼馴染。倒れた理由は、優子ちゃんが胸に飛び込んできたからなのだと解った。
「ただいま」
へら、と力を抜いて笑う。ああ良かった、あの頃の彼女のままでいてくれている。それがわかって、どうしようもなく安堵した。五年間距離が離れてしまっただけで、心まで離れてしまったのではないかと恐れたのは杞憂だったみたいだ。
優子ちゃんはその後も「髪染めたんだね！ 似合ってるよ！ かっこ良か〜！」なんて笑いながら髪を撫でてくる。男に馬乗りの状態で触れるなんて、普通の男にこんな事やったら大変だと思うけれど、優子ちゃんは子供の頃から一緒に居たし、俺の事も理解してくれている。
だから『間違い』なんてものも起こる訳が無い。西郡もそれをわかっているから、学生の時も特に何も言っては来なかった。むしろ「姉弟みたいだな」なんて笑っていたっけ。
「ユウコは大胆だなあ、ほら身体が冷えるよ」
でも、ヴィクトルはそんな仲を知らない。だから心配してなのか気を利かせてなのか、優子ちゃんに手をそっと差し伸べて立ち上がらせた。
「ごめんなさい、つい」
「仲良いんだね、ほらAも起きて」
「ありがとうございます」
そのまま俺にも手を伸ばし、立ち上がらせてくれる。一人で立とうとしたのにぐっと腰を支えられて、それにより逆によろけてヴィクトルの胸にぶつかった。
「おやおや、大丈夫？」
「…わざとですよね今の」
「まさか」
俺をからかって遊ぶヴィクトルに、優子ちゃんが「仲良いね」と微笑ましいとばかりに笑う。「まあね」と返したヴィクトルの笑顔は、なんだかいつもとは少し違って見えた。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
