臆病者 ページ29
長谷津の町並みを眺めながら、ゆっくり海沿いを歩く。よく晴れた空だ。海が光を反射して、キラキラと輝いていて綺麗だ。眩しさに目を細めながら、東京の海はこんなに輝いていなかったと思った。
橋を渡って暫く歩くと、目的地の建物が見えてくる。城下でトレーニングをしているのなら遭遇してもおかしくないと思うが、二人の姿は見当たらない。
と、なるとやはりアイスキャッスルはせつ、この建物の中に居るのだろう。
「…えー、っと」
何をこんなに緊張しているのだろう。
ガラス扉を前に、それを押し開くのを躊躇った。中にはきっと優子ちゃんが、昔と変わらぬ笑顔で立っていて、暖かく迎えてくれる筈だ。西郡だって、背をバシバシと叩いて、おかえり！なんて言ってくれる筈なのだ。
でも、それはあくまで、自分の中の記憶である彼らの姿。本当にあの時と変わらずに接してくれるかなんてわからないのだ。それが情けなくも、躊躇った理由だった。大丈夫だとは思う、子供の頃から一緒に居たんだから。けれど、だけど、もしかしたら。
すっかり、疑心暗鬼な人間になってしまった。溜息を吐くと同時に、目の前の扉が独りでに開いた。
「……？」
誰かが開けたのかと思ったが、目の前には誰も居ない。訝しげに首を傾げたところで、ガラスに映る背後の人間に気がついた。
「入らないの？ 子犬ちゃん」
己より背が高いヴィクトルが、頭上で扉に手を着いて押し開いていたのだ。そこまで物凄く身長差がある訳では無いけれど、俯き気味で居た為か、その腕に気付かなかった。附随してヴィクトルはリーチがある。
「ヴィクトル…なんで背後から現れるんですか、心臓に悪い」
「誰かが扉の前で立ち尽くしてたから何やってるのかと思ったら、Aだったなんてね、滑りに来たの？」
いくら腕が長いといっても目の前の扉を押し開く程だ、必然的に扉の前に立つ己とヴィクトルの距離は近くなる。パーソナルスペースなんのその。少し身体ごと振り返り見上げると、いつものにこやかな表情があった。
「滑りませんよ、というより滑れません」
「子供の頃は此処で滑ってたんだろう？」
「…何故それを」
「ユウコに聞いたよ、君に会いたがってた。長谷津は良い所だね、Aの事が色々知れる」
「……そりゃ、出生の地ですから」
優子ちゃんが、会いたがってた。その言葉に擽ったくなる。忘れずに居てくれている事が、嬉しい。先程までうじうじ悩んでいたというのに、己も大概単純に出来ている。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
