過去 ページ25
夢を見た。
東京の、排気ガスに塗れた空気、高層ビルの合間に切り取る程度にしか見えない低い空、狭い道路、整備された最新の商業施設に、一歩裏へ入れば昔ながらの路地、怪しい看板。
それらが東京という都会の魅力の裏に隠れた現実。煌びやかな設備なんて面の顔に過ぎない。都会に抱いた憧れは、一本裏の汚い路地に入ってしまえばすぐに崩れ去る。
其処に佇む、二十歳の自分。二年前の事だ。まるで幽体離脱でもしたかのように、当時の自分を横で客観的に見ている、そんな夢だった。
東京に越して三年、ある程度裏の事とか、張り巡らされた虚構とか、そういったものを知っている時期だ。そして、自分自身の在り方を見失った時期でもある。
「A」
呼ばれて振り返る。其処に立つのは男で、しかし路地裏の暗さから顔が良く分からない。一体誰に話しかけられたのだろう。横の二十歳の自分を見ると、嬉しそうに顔を綻ばせているのが解った。
親しい間柄の人間なのか。彼に駆け寄る自分の背中を眺める。隣に並ぶとその男は随分背が高い、180cmはあるだろうか。生憎自分はそこまで背が高い訳でも無いので、見上げながら会話をしている。
その見上げる仕草が可愛いねと、男は自分の額にキスを落す。擽ったげに笑う己の反応からして、恋仲なのが分かった。
そうだ。己がホモセクシュアルである事を隠さずに暮らせていた場所が、この路地と、彼の隣だった。
ホモセクシュアル、同性愛者だ。高校に上がる時だっただろうか、己が同性にしかそういった感情が湧かないのだと気が付いた。男女双方愛せるバイセクシュアルでもない、完全に同性しかそういった対象に見れなかった。
随分悩んだし、恐怖した。気付いてしまった時はまだ未成年。精神的にも未熟である己が、簡単に自分の性的嗜好を受け入れられるはずも無かった。
マイノリティである事は流石に当時の自分でも解っていたから、親に何と言えば良いのか、友達に明かすべきか、包み隠さず話したとして、受け入れてもらえるのだろうか。そんな事を何度も頭で反復していたのだ。
「A、おいで」
彼はそんな自分を受け入れてくれた、というよりは、同じ嗜好を持った人間だった。ロシアと日本のハーフだと聞いている。堀が深くて、色白だ。背が高くて、スキンシップが多い。愛されているのだとその度に思う。
(誰かに、似ていないか？)
上げられた要素がふと現実の自分に問いかける。
彼の要素は、誰かに、似ていた。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (
レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます！何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます！描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです！´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…ｗ凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaga | 作者ホームページ：https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時：2016年11月6日 21時
