一夜2 ページ21
何だか良く分からないが、このままキスされるのだろうか。顔を背けようにも腰と後頭部をがっちりホールドされているので動けない。
ヴィクトルの銀色で長い睫毛が震えて、細められた瞼の奥の瞳が綺麗だった。薄く開いた唇がチラリと見えて、少し顔が熱くなる。
外国人からしたらこんなもの、挨拶でしかない。きっとそうだ、おはようのキスなんて、ありふれたこと。そう自分に言い聞かせてはみるが、目の前の男は恐ろしく美しい。堪らずギュッと目を閉じた。
「A…」
「…っ」
囁く低音は、正直腰にクる。小さく跳ねてしまったけれど、腕を回されているのだから気付かれてしまっただろうか。挨拶のキスなら早くしてほしい。さっと触れて、さっと離れていってほしい。
横髪をさらりと耳に掛けられて、湧き上がる羞恥に堪えていると、額にコツンと小さな衝撃が走った。
「…?」
そのまま何も起こらない。恐る恐るそっと瞼を持ち上げれば、目の前にはじっとこちらを見つめるヴィクトルが居た。近すぎてぼやけて見える。
「…あの、ヴィクトル?」
この距離で話すのはなかなかに恥ずかしい。息もあまり出来ないし、声も寝起きの掠れたものになってしまった。
「んー…まだちょっと熱っぽいね」
「…へ?」
首筋を撫でる訳ではなく温度を測るように手を当てている。突然何を、と瞬きをしていると、少し離れたヴィクトルが小さく息を吐いた。
「A、昨日雪に埋れたから風邪引いたんじゃないかい? 夜寝ちゃった時、熱があったみたいだよ」
「昨日の、夜…」
確かに少し酒を飲んだだけであんなにすぐ眠くなるなんて事は今までに無かったから、疲れているんだろうと思っていたけど。どうやらそれは体調が悪かったからみたいだ。
「抱っこされてたマッカチンが教えてくれたんだ、心配そうな声で鳴くからなんだろうと思ったよ」
Aの体温が高過ぎるって気付いたんだろうね。俺も頬撫でてすぐ解ったよ、顔が赤かったのは酔ってた訳じゃ無かったんだね。なんて話すヴィクトルはどこか真剣だ。昨日一日で何度も見た力の抜けた笑顔でも、妖艶な笑みでもない、真面目な顔。心配、してくれたんだろうな。
「それで、ヴィクトルが運んでくれたんですか」
「そうだよ、Aの事だから勇利や勇利ママに言うなって隠しそうだったから、内緒で運んできた」
「…まだ一日しか一緒に居ないのに、よく俺のことわかってますね」
「だろう?」
そこでようやくヴィクトルは柔らかく笑った。
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倉科(プロフ) - Kagaさん» わざわざ返信ありがとうございます…!!続編も応援しているので、頑張って下さい!※長引かせると申し訳ないので返信は不要です。 (2016年12月5日 11時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - びわさん» びわさんはじめまして、コメントありがとうございます!何度も読み返して頂けているなんて光栄です(;_;)少しずつヴィクトルに変えられていく彼や周りの人間、ヴィクトル本人の動きをこれからも楽しみにして頂けると嬉しいです^^* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
Kaga(プロフ) - 倉科さん» 倉科さんはじめまして、コメントありがとうございます!描写は細かく頭で映像を浮かべやすいように、と心掛けていたので嬉しいです(;_;)これからもまだまだ続きますので、またお読み頂けると嬉しいです!´`* (2016年12月5日 8時) (レス) id: c0624adda5 (このIDを非表示/違反報告)
びわ - 他の小説にはない豊かな表現がとても好きで何度も読み返しています。主人公の心情が動いていくさま、過去のことなど話の構成が面白いです。これからも応援しております。 (2016年12月5日 2時) (レス) id: be5139214a (このIDを非表示/違反報告)
倉科(プロフ) - コメント失礼します。このサイトではあまり見かけないとても分かりやすく鮮やかな描写が素敵で一気に読んでしましました…w凄く引き込まれてまだまだ続きが気になります。更新を日頃の楽しみにしつつ読ませていただきますのでこれからも頑張って下さい。 (2016年12月4日 23時) (レス) id: 04ed6ff0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kaga | 作者ホームページ:https://twitter.com/kaga_yoi
作成日時:2016年11月6日 21時