【YOI】落陽に染まる【男主】

漂流2 ページ2

己が何故、長谷津へ帰ってきたかというと、冒頭の通り「賭けに負けた」からである。パチンコとかスロットとか、カードとか麻雀とかそういう賭け事ではなく、そのまま「人生の」だ。
　選ぶべき選択肢を選べず、誤った選択をして、身も心も疲れ果てて漂流するかのように帰ってきた。東京での所在が無くなって、散々迷った果てに縋るように連絡をした幼なじみの家。当の幼なじみ本人はずっと帰ってきていないらしいが、その父母が快く承諾をしてくれたので、今日から此処が己の住まいと職場になる。
　厄介になります、とか、ご迷惑を、なんて言葉を考えていたのに、「おかえり」の一言で迎え入れてくれたこの一家に感謝してもしきれない。それが勝生家。第二の家族だ。

　まずは温泉に入って、ゆっくり身体の疲れを取っておいで、と送り出されて露天に浸かる。ここの作りも昔から変わらない。
「勇利、まだ頑張ってるんだ」
　肩に湯を流しながら先程聞いた幼なじみの不在の理由を思い出し、ふっと笑みがこぼれた。あの負けず嫌いは、遠い空の下で夢と憧れを追いかけ続けているのだという。
　真っ直ぐで、しなやかさを持つ一つ歳上の彼は己の憧れでもあった。兄のように慕い、つられてスケートを始め、アイスキャッスル長谷津で共に氷上に立った事もある。

　才能が無いと感じ暫くして辞めてしまったが、氷の上で踊るのは楽しかった。けれど純粋に、趣味の一つで収めるべきだと思ったのだ。反対に勇利は努力を重ねてぐんぐん伸びていき、より高みを目指す為に長谷津を旅立った。ほとんど同時期に己も東京へ越してしまったので、バタバタし過ぎてあまりきちんとした別れもしなかったような記憶がある。

「帰ってきたら、また一緒に温泉浸かりたいな」

　星空を見上げて、遠くで頑張る彼を思う。
　この優しく暖かな湯に一緒に浸かる人間が、彼だけでは無くなるだなんて、この時は少しも思わなかった。

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