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第35話 ページ37

「珍しいですねィ土方さん。あの女に変な情でも湧きましたか」

万事屋に手を引かれ、出口に向かう女。

まだ成年には及ばずとも、凛とした女だった。

あぐらをかいて、煙草をふかしている土方の方には目もくれず、そんじょそこらにはいないような美貌を見据える。

黒髪に、黒い瞳に、落ち着いた雰囲気。

それでも俗ぼけしているような風ではなく。

世間を知り過ぎているような、感じがした。

「…ちげぇよ。ちゃんとした理由はある」

遊女を辞めれたってのに、牢屋に入りたがるやつがいるかよ。

不機嫌そうに、土方は吐き捨てた。

沖田も、半分予想してたかのようだ。

視界から居なくなった、年端もいかぬ女。

遊女ということも、本日付けで買われていたということも、裏付けは取れていた。

では、鬼の副長と恐れられている土方が、決定的な証拠も無いまま逃がしたのは、何故なのか。

沖田は、目を細める。

日の当たらない鬱蒼とした地下に押し込められ、笑顔を浮かべる女達。

吉原と呼ばれる桃源郷は、もはや人の威厳を保ってはいなかった。

組み敷き、蹂躙され、笑顔を浮かべ、そしてまた、同じことの繰り返し。

自分が突然あの環境に投げ込まれたらいつまで耐えられるのだろうか。

女の幸せとは、好きな男と結婚して、暖かな家庭も築くことだったとしたら。

あの桃源郷は、世界一不幸な場所だ。

幕府の腐敗が進む中、警備で吉原に入ったことがある。

提灯が道を、女を、女達の肉を灯す。

華やかで、うららかなその世界は、楽園と言うほかないだろう。

それでも、裏舞台に一歩でも入ったらそこにはもう人権は無かった。

殴られ蹴られ、放置され、痛みつけられて強制される女。

重ねられた化粧も、埋められた笑顔も、そそるような体も。

女達のものではなく、男達のもの。

まるで家畜だ。

働かなければ、殺される。

「…土方さん、」
「…んだよ」

感情のよめない声に、苛立った声が返される。

煙草の煙も勢いよく吐き出し、土方は首元のタイを緩める。

心底、そう思って、沖田総悟は音を投げかけた。

「…俺ァ、好きな女が吉原出身だったら、何しでかすか分かりやせん」
「……俺もだ」

まず、吉原に乗り込んで、手当たり次第に切り殺すかもしれない。

惚れた女があの吉原で耐えてきたのかと思うと、どうにもそんな気がする。

復讐してもし足りない。愛しい女を、大切にするのは当たり前だ。

(あの女、苦労してきたんですねィ)
(奴に惚れた奴は大変だろうな)

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飴崎 - ルーンさん» ありがとうございます〜。現状維持できるように頑張ります! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
飴崎 - 英さん» ありがとうございます!今すぐ取り掛からせていただきますね! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
飴崎 - バトラッシュさん» 頑張らせていただきます!読んでくださって本当にありがとうございます! (2015年2月7日 18時) (レス) id: 69cad8d3b5 (このIDを非表示/違反報告)
ルーン - とても面白いです!続編楽しみに待ってます! (2015年1月22日 2時) (レス) id: 04550145ac (このIDを非表示/違反報告)
- 面白かったです!続編楽しみに待っています! (2015年1月21日 7時) (レス) id: b6fd32bf94 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:飴崎 | 作成日時:2012年8月6日 14時

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