19枚目 ページ21
「この中で、絵を描きたい人がいたら手を上げて!!!」
てっきり女性が絵を描くものだと思っていた俺は、ほんの少しだけ拍子抜けした。周りもざわざわと騒がしい。何人かはそのままその場を立ち去ろうとしている。
そんな中で、雪ちゃんは俺の隣で、何故だかずっとそわそわしていた。
「……描きたいの?」
「え、……いや、別に」
描きたいんだな、うん。
雪ちゃんが絵を描くのが大好きなんて、もう言わずともわかっている事だ。病院でも家でもスケッチブックを肌身離さず持ち歩いてるし、今もカバンの中には、きっとスケッチブックが入ってる。
「描きたいなら行く?」
「……でも、私、じゃ、」
「大丈夫だって!俺もいるし」
我ながら何を根拠に言ってるのか、俺は。
けど、俺の言葉を聞いた雪ちゃんは、若干うずうずしながら困ったような顔で「いいの?」と俺に聞いてきた。
……可愛いです。
「いいよ。行こっか」
「……う、ん」
「すいませーん!」
手を挙げて前に行く俺達2人に、周囲の視線が一気にこっちに集まってくる。
サングラスの女性はこっちを見ると、カツカツとヒールを鳴らして雪ちゃんに近付き、その顔を覗き込んだ。
「貴方が描きたい子?」
「……っ、は、い」
「描いてみて。画材はここの物全部好きに使っていいから」
そう言って、女性はキャンバスの近くに置いた画材を顎で指し示す。
普通の絵の具にペンキに色鉛筆、他にも俺が見た事のない筆とかもたくさんある。
ほぉぉ……と、隣で雪ちゃんが感嘆の吐息をこぼした。
「あの、これ、何描いてもいいんですか」
「勿論よ」
「………、ほんとに、描いて、いいんですか」
未だ不安げな、しかしとても嬉々とした表情で、雪ちゃんは女性に確認する。女性はにこりと微笑みながら「いいわよ」と言って雪ちゃんの背中をポンと叩いた。
する、と雪ちゃんの手と俺の手が離れる。
「………」
キャンバスに近付く雪ちゃんは、まるで宝物でも見つけたみたいにキラキラと輝いた目をしていた。それすら俺には宝石みたいに綺麗に見えて、思わずみとれてしまう。
「……、」
息を呑むように喉が鳴る。
雪ちゃんの白い指先が、近くの筆を手に取った。
空のような真っ青を。
神々しい黄色い光を。
地を蹴る音と頬を凪ぐ白き風を。
あの時私が見た、空を飛ぶ
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ユグド(プロフ) - 18↑さん» コメントありがとうございます!ハイキューは初めて書いたのですが、楽しんでもらえて何よりです! (2018年12月20日 11時) (レス) id: 67fea2266c (このIDを非表示/違反報告)
18↑ - 連載当初からずっと読ませていただいております。とても面白くて、更新される日をいつも楽しみにしています! (2018年12月20日 9時) (レス) id: 42ad75da4b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユグド | 作成日時:2018年12月13日 20時