苛立ち 後編 ページ8
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「……足が、速かったから」
「は?」
「一哉も見たでしょう、あれ。凄くドキドキしたんだ」
「は、何、それ」
感情の炎にドライアイスを放り込まれたようだった。《足が速いから》。それは一哉にとっての最大の武器で、誇りだった。
一哉には、理苑がそれを軽んじ、眼中にもないと言ったように感じた。それがとても悔しくて、悲しかった。
「やめろよ」
「え?」
「そんな理由で、野球部の奴選ぶなんておかしいだろ。部内での立場もあるし、いいことないぜ」
一瞬、呆けた表情をして、理苑は顔を歪めた。
「何なの……野球部野球部って」
語尾が震えているのに気付いたときには、理苑の目尻には涙が溜まっていた。
「止めてくれたのに、嬉しかったのに。そんな理由で、じゃあ、あいつが野球部じゃなかったら、……っ!」
そこまで言って、理苑が目を見開き口を押さえる。自分でも予想外の発言だったようで、その動作で限界まで張っていた涙が弾けて頬を伝った。
理苑の涙を見るのは二度目だった。
一度目は衝動的な胸の高鳴りを感じた。
二度目はただただ胸が苦しくなった。
「〜〜っ!」
涙が地面に落ちる前に、理苑は踵を返して走り出した。
追うことは、出来なかった。
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ゼファー(プロフ) - Kirariさん» ありがとうございます。これからも頑張ります。 (2021年2月8日 8時) (レス) id: 758eda2cb0 (このIDを非表示/違反報告)
Kirari - すごいおもしろかったです!内容もすごくおもしろいし、キャラも、みんな個性あっておもしろかったです!これからもがんばってください! (2021年2月7日 21時) (レス) id: 659499b88d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月15日 11時