アイリヴ part2 ページ9
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「天界史上においても最強の天使って言うからどんなむさ苦しい奴かと思ったけど、こんな可愛らしい子とは思いもしなかったよ」
容姿に違わぬ、冷たい声。
昨日はボクの手で啼く姿があまりに可愛くて、我慢できなくなりそうだったし。そう呟いて口角を吊り上げる彼は、あの穏やかなアイリではない。
「ご飯、美味しかっただろ？」
アイリは乾いた笑い声をこぼす。ユウはなにも言えない。あまりの絶望感に言葉を発することすら出来ない。
ただ、彼の言葉で理解出来たことは――あれらの食事に、何かを盛られていたということ。何か？ 否、十中八九毒だ。でなければ有り得ない。
「キミも聞いたことくらいあるだろう？ 翼に力を宿し、それを様々な天使に食わせ、天界を統べた堕天使の話くらい」
アイリの言葉に、ユウは目を見開いた。当然だ。その者の話は、天界では知らないものなどいない。
何百年も昔の話だ。『
専ら治癒の為に使われたその羽根だったが、一つだけ欠点があった。
それは、翼から引きちぎる必要があること。
普通、天使の羽根は傷付けられるとすぐには再生しない。それが唯一の天使の弱点であった。しかし彼の再生力は並ではなく、他のものにはない速度で生え変わった。
ある時は毒に、ある時は薬に。
彼は天界を掌握するべく、その羽根を己で引きちぎり他の者に食べさせた。依存性のあったその羽根は――肉は、あまりにも美味であり、一度口にすれば手放せない程。それがまた彼の立場を強くする。
彼の力が危険だと気づいた時には遅かった。既に、誰もが彼に逆らえなかった。
天界は彼に掌握されてしまった。その天使は最後に天帝すら暗殺し、自身が天帝としてその座に君臨した。
しかし、それに反して、彼に対する不満の声も膨れ上がって行った。殺された天帝の子を中心に、反乱の計画は進んでいった。
そしてある日、クーデターは成功した。天使は首を撥ねられ、天界には再び平穏が訪れた。――ある女天使の命と引き換えに。
その者の名はアリア・イヒ・ヴェーア。
ユウの母親である。
アリアは産まれてまもないユウを長い刻に封印すると、密かに彼への対抗策を練っていたのである。
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作者名：ゼファー | 作成日時：2021年1月14日 13時
