吹き飛ばされる王冠 part2 ページ49
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しかし、掛けられた言葉は労りのそれだった。
「助けられなくて、ごめんなさい」
「オマエでもどうしようもなかったんだろう。気にするな」
彼らの顔には、嘲りのいろはなかった。かつてはライバル視されて、喧嘩を売られることもよくあった。しかし、今は優しくいたわってくれる。
突き落とされた地獄の中で、二人の言葉はユウの壊れた心を優しく包み込んだ。
ユウはテーブルに置かれた焼き林檎を見る。
輪切りにされ、バターとシナモンの香りを漂わせる林檎はユウのよく食べるおやつそのものだ。
だが――その林檎がもう効力を持たないことを、ユウは知っている。
恐らく、アイリの怒りを受けるだろう。体の支配権を握っている彼が、これを食べたことを知らずに済むわけがない。今度こそ発狂させられるかもしれないし、さらなる地獄の底へ突き落とされるかもしれない。
彼が自分を殺さないことは何となくわかっていて――ただ永遠に苦しめられるだけだ。それは死ぬよりも辛いだろうが、ユウにはどうでも良い事だった。
今はただ、二人の厚意が嬉しかった。
「いただきます」
泣きそうになるのを堪えながら、ユウは笑った。
「フン、そうやって素直な方がオマエは似合っている」
エイスが切り分けた林檎を口元に運んでくる。むず痒さを覚えながら、ユウはそれを口にした。
元の素材がよいというのもあるが、輪切りにして焼いているというのにジューシーで、砂糖とシナモンの配合もちょうどよい。しゃくしゃくと林檎を咀嚼したあと、ややあってユウは呟いた。
「……おいしい」
「当然だ。オレが誰か、知らないわけではなかろう」
照れ隠しにか、きつい口調でそう言って、エイスはまた鼻を鳴らす。
エイスという男は自信家であるが、それに見合うだけの実力を持つこともユウは知っている。
完璧主義――エイス・アークにこそ似合う言葉だ。彼の家が名門で、本来料理などしないことくらいはユウでも知っている。だからこそ、この料理はユウの為に勉強し、努力した結果であることも、ユウは理解していた。
ゼフィラがそっと自身に触れ、神力を循環させているのに気づく。痛みが少しづつ和らいでいて、彼が治癒をしてくれているのだと分かった。
彼は操る武器のせいで戦闘向きと思われがちだが、持つ能力は回復系統だ。傷の原因が原因なだけに少しだけ恥ずかしかったが、それでもユウは感謝してもしきれない。
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作者名：ゼファー | 作成日時：2021年1月14日 13時
