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月の雫 part4 ページ47

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 あの日のことは、二人にとっても屈辱だった。
 天帝レガリアからの命令を受け、姿を消したジブリールことユウ・ビスト・ヴェーアを、二人は探していた。悪魔達との戦争で、重症を負っても生きているすれば何も関係のない人間界。
 二人は虱潰しに人間界を探し、一月は経ち、やっぱり死んでいるんじゃないかと思い始めたその時。
 煉瓦に覆われた街並みの中に彼はいた。
 翡翠色の髪に、ペリドットの瞳。天使としての衣は纏っていなかったが、間違いなくそれはユウだった。
 二人はユウを路地に追い詰めて、いくつものことを問うた。
 彼の瞳は恐怖に充ちていて、それがエイスを苛立たせた。後ろめたいことがなければ、彼が怯える理由などないはずだ。
 問いに答えぬユウに痺れを切らし、エイスは腕を掴んだ。その瞬間、ユウは悲鳴をあげて崩れ落ちたのだ。
 わけも分からず呆然とする二人の前に現れた、美しい姿の青年。
「ワタシのモノに触らないでくれるかな」
 青年はそう言った。
 堕天使アイリヴ。
 苦しみ悶えるユウを背に、二人は各々の得物を手に戦闘態勢に入ったが――一瞬で、終わった。ユウの悲鳴に気を取られた瞬間、なんでもないただの蹴りに戦闘能力を奪われた。
 そして、眼前でユウを犯そうとするアイリヴにゼフィラが投擲したナイフは、易々と止められる。それだけではなく、ナイフでエイスの翼を貫いた。
 歴戦の戦士たる二人ですら一撃だったのだ。いくら天界最強といえど、翼の肉を食わされていれば抵抗することだって出来ないはずだ。あの場所でのやり取りから考えるに、抵抗するする気力すら奪われているのだろうし。
 心底からの嫌悪を表情に現して、アイリヴはユウを連れて飛び立つ。呼ぶことすらかなわず、ただアイリヴを見つめているだけのゼフィラに、ユウは微かに唇を動かした。
 逃げろ。
 彼は既に、自分が抵抗する術を持たぬと悟っていたのだろう。彼は涙を流していた。
 ――全てを諦め切っているように。


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設定タグ:BL , 天使   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時

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