無計画なる放浪者 part5 ページ37
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よく『理性的だ』と言われた。間違っていないだろうし、見失うこともなかった。意志がブレないことは、自分を支えるものの一つでもあった。
それを失う感覚を与えられたのだ。何度意識がなくなっても、何度泣いて懇願しても、アイリが満足するまで終わることはなかった。
いつも怖かった。何もわからなくなる瞬間が恐ろしかった。自分のアイデンティティを全て壊されたようで。
初めての時にわけも分からず、あられもない声が上がってしまった時には、激しいショックと共に涙が零れた。
ほとんど泣いたことの無い自分が泣くとは思わなかったし、抑えようにも全く出来ない。気がつけばユウは、子供のようにしゃくり上げていた。そんなユウをアイリは優しく撫でてくれたし、最後には彼に身を委ねた。
ただ、安心した。自分を助けてくれたアイリの気持ちに、答えられた気がしたから。
故に、躊躇いもなく自分の翼をへし折ったアイリに絶望した。優しかったアイリがそんなことをするなど、誰が考えるだろうか。
信じられなかった。わけも分からず振り返った肩越しに見えたアイリの表情と、もう片方の翼まで引きちぎろうとする手の感触を今も覚えている。
それから、アイリは残った翼もへし折った。事実を拒否する思考と、『これは現実だ』と叩き付けてくる激痛に意識を手放した。
再びこの家で覚醒した時には夢だと思った。しかし標本さながらに縫い留められた白翼に恐怖が蘇る。部屋に入ってきたアイリが何事も無かったかのように微笑んでいる様はあまりにも恐ろしかった。
彼の唇が近づいてきたのを拒んだ瞬間、与えられた激痛に絶望した。抱きしめて囁く冷たい声に理解した。アイリヴからは、逃れられないことを。
アイリは何度もユウを抱いた。自分を組み敷くアイリはあまりにも怖くて、それでも逆らえない。
痛みがあるだけよかった。前後不覚になってしまうことに変わりはないが、それでも少しだけマシだ。正気を見失うことはあっても、狂うことはなかったから。
アイリからの制裁を受けた時、狂いかけたのもそのためだった。
激しい痛みのあと、おぞましい感覚を立て続けに与えられて休む間もない。意識を失っている間は起きるまで激しくされて、目を覚ましてたら何度も何度も何度も。
あまりに辛い仕置きに正気を失っていたし、何もかもがわからなくなっていった。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時