愚者の妄言 part2 ページ31
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彼は賢いから、自分の置かれた現状をきちんと把握しているに違いない。
行為でついた傷は癒してやらない。それがあれば、自身の受けた辱めを、アイリのことを思い出すに違いないから。
食事も色々と試して彼の好みを把握したり、眠れない時にはハニーミルクを作ったり、街でなにか欲しいものがあったらとお小遣いを上げていたり。アイリはこれでも、甘やかしているつもりだ。
日常生活では優しく。
容赦がないのはベッドの上だけ。
ユウにとってはそれが一番大事なことだったのかもしれないが、本人にも制御できないのだからどうしようもない。
アイリはこれでも我慢しているつもりなのだ。
(全く、呆れたもんだよ)
浮かんだのは、自嘲の笑みだった。
それから、身体を机から起こして肩を竦めた時だった。
いつもより熱い手のひらが、アイリのそれに重ねられた。
「どうしたの？」
不思議そうな表情で、ユウがアイリを見上げる。余程酷い顔をしていたのだろうか、彼は慰めるようにアイリの手を握る。
「大丈夫？」
いつも酷い目に逢わされている癖に、彼はそう声をかけた。守る立場であったからだろうか。落ち込んでいたり、悩んでいるアイリを見ると、いつもユウは頭を撫でてくれていた。今は物理的な問題により、手であるが。
おそらく、無意識のことであろう。意識した途端、ユウはアイリから離れようとするし震え出す。それくらいアイリのことを恐れているのに、彼は悩んでいるアイリを慰めてくれるのだ。
「もぉ……」
恨めしげに、アイリはそう漏らした。
「なあに？」
ユウの声はあまりにも優しかった。照れ隠しのように、アイリはそっぽを向く。
「そんなこと言ってていいの？ またおかされるの、嫌でしょ」
ユウが躊躇ったのを感じた。手は強ばり、震えている。
そんなに怖いくせに、
「なんでこんなに甘いの？ 学習能力がないの？ 甘やかしたら付け上がるよ、ボクは。また泣くことになるんだから」
視線をユウの方に向けると、彼の目は戸惑うように揺れていた。恐ろしいくせに迷っている、煮え切らないその態度が、初めての時を思い出させて――流石のアイリでも、どこかの糸がプツリと切れた。
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作者名：ゼファー | 作成日時：2021年1月14日 13時
