奇妙な帽子 part3 ページ27
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だが、レガリアの本質はアイリと同じだ。
アイリは自身の狡猾さを知っている。可愛らしいと言われる容貌も理解している。アイリにとっては、己自身が武器であった。なぜなら『アイリヴ』は、そういう風に
皆に賞賛や羨望の眼差しを向けられる先の天帝――イスデア・ファルシュ・ヴェーア。
アイリヴは彼が大嫌いだった。もちろん、そんな素振りは誰にも見せない。イスデアに反発する意志を見せるということは、自身の命を脅かすということになるのだから。
そしてアイリヴは、イスデアの罪を知っていた。否、知らないわけがない。
アイリヴ・フォルセイダーと名付けられた自分こそが、彼の罪の証なのだから。
アイリヴが天帝を殺し、その座を奪った理由。
それを知る者は誰もいない。だがそれで、アイリは構わなかった。語る必要も無いし、語りたくなかった。何より出生の秘密を知りたくなかった。
「フツウがよかったなぁ」
アイリは無意識に、そう零していた。そういう意味では、ユウのことが羨ましかったし、存在自体が疎ましがった。
苦しめて、壊したかった。
憎き者の血を引く彼を。
自分を殺そうとした女天使の子であるこの天使を、苦しめるだけ苦しめて壊したかった。彼を抱いたのも、そのためだ。
男性であるユウは、他の男に触れることを許さなかった。言い寄る者は星の数ほどいたし、時には襲われることもあったようだった。しかし、天界最強は伊達ではないようで、そんなことがあっても容赦なく叩き伏せていた。
「何が御用ですか」
静かな声のあとに返ってくる、下卑た声。アイリでも嫌な顔をするそれに対して、返事とばかりに響く打撃音と悲鳴。品のない声が悲鳴に代わる度、アイリは憎悪も忘れて大笑いしていた。
――その割には、女性には弱かった。
迫られる度に戸惑うような、要領を得ぬ言葉を返すユウに、アイリはやはり、大笑いした。生真面目で、誠実で、不器用で、そして誰よりも優しい子。憎んでいるはずなのに、本当はその頃から好きだったのかもしれない。それぐらい、届いてくる彼の言動はアイリにとって可愛いものだった。
いつしか、彼は魔界に赴くようになった。
アイリの羽根はそこにも相応しいように血肉と変え、配置してあった。始めは天使達を守るためのものであったが、天界を追放され意味をなさないものとなっていた。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時