こぼれ落ちる水 part3 ページ19
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「頼む、
ゼフィラの懇願は聞かず、アイリは紙屑を捨てるような軽さでナイフを放った。純白の翼を易々と貫くそれに唇を噛み締めエイスは堪えようとするが、苦悶の声が端から漏れていく。
「貴様ぁああああッ……!!」
風が鳴るようにゼフィラが唸る。再び両手に握られた数本の投刃に、アイリはゼフィラに告げた。
「それでもやるって言うなら、キミ。コイツから、殺すよ」
アイリは本気だった。彼にはエイスを抵抗もさせず殺すことが出来る。そして一連のやり取りで思い知った。 勝てない。ユウを庇っている相手に一矢報いることすら適わない。――絶対に。
ゼフィラは己の軽率な行動を悔やむ。
「あーあ美しい友情ってヤツ? 気持ち悪。なんかどぉでもよくなっちゃったぁ。帰ろぉ、ユウちゃん」
退屈そうに彼は言って、
僅かに木の葉を舞いあげて、アイリは羽ばたいた。
何も出来ずに、ゼフィラはアイリを睨んだ。今の彼にできるのはそれだけだった。
「……めん……」
かすれた声でユウが言った。ごめん。高度を上げていくアイリの腕の中で、彼は長い睫毛が縁取る目を伏せた。
エイス、ゼフィラ、ごめんなさい。もうわたしは戻らない。戻れないんだ。だから、死んだものとしてくれ。リリアとシンにもそう伝えて。わたしのせいで二人が傷つくなんて耐えられない。この悪魔に嬲られるのは、わたし一人で十分だから。
それがユウの思いだった。
ユウは苦痛からではなく、悲しみから涙を流し、白いその頬を濡らした。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時