検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:10,146 hit

こぼれ落ちる水 part3 ページ19

.


「頼む、()が悪かった! 俺はどうなったっていいッ、だから止めてくれ! エイスにはなにも……!!」
 ゼフィラの懇願は聞かず、アイリは紙屑を捨てるような軽さでナイフを放った。純白の翼を易々と貫くそれに唇を噛み締めエイスは堪えようとするが、苦悶の声が端から漏れていく。
「貴様ぁああああッ……!!」
 風が鳴るようにゼフィラが唸る。再び両手に握られた数本の投刃に、アイリはゼフィラに告げた。
「それでもやるって言うなら、キミ。コイツから、殺すよ」
 アイリは本気だった。彼にはエイスを抵抗もさせず殺すことが出来る。そして一連のやり取りで思い知った。 勝てない。ユウを庇っている相手に一矢報いることすら適わない。――絶対に。
 ゼフィラは己の軽率な行動を悔やむ。
「あーあ美しい友情ってヤツ? 気持ち悪。なんかどぉでもよくなっちゃったぁ。帰ろぉ、ユウちゃん」
 退屈そうに彼は言って、赤鉄鉱(ヘマタイト)のような煌めきを宿した翼を広げる。赤みのある黒に反射する白翼。普通の天使には有り得ないその色は、アイリが本当に『アイリヴ』であることを示していた。
 僅かに木の葉を舞いあげて、アイリは羽ばたいた。
 何も出来ずに、ゼフィラはアイリを睨んだ。今の彼にできるのはそれだけだった。
「……めん……」
 かすれた声でユウが言った。ごめん。高度を上げていくアイリの腕の中で、彼は長い睫毛が縁取る目を伏せた。
 エイス、ゼフィラ、ごめんなさい。もうわたしは戻らない。戻れないんだ。だから、死んだものとしてくれ。リリアとシンにもそう伝えて。わたしのせいで二人が傷つくなんて耐えられない。この悪魔に嬲られるのは、わたし一人で十分だから。
 それがユウの思いだった。
 ユウは苦痛からではなく、悲しみから涙を流し、白いその頬を濡らした。


.

こぼれ落ちる水 part4→←こぼれ落ちる水 part2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (61 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
9人がお気に入り
設定タグ:BL , 天使   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。