【オリジナル/BL】悪魔の翼 (ページ44)

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#11 月の雫ページ44

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「来い、『ジブリール』。いや、ユウ・ビスト・ヴェーア」
　アーク家のエイス。
　その名に相応しい気高さを以て放たれた命令の言葉に、気圧されたユウは一歩後退る。
　ただ、部屋が凄まじい冷気に包まれたような体感。背筋に氷を落とされたような気がした。
「あ……」
　戸惑いと恐怖が相まって言葉が出ない。がたがたと身体が震える。
「ユウさん」
　隣にいたゼフィラが、困ったような悲しげなような微笑みを浮かべて、ユウの左腕を掴んだ。シャツから伸びる腕には以前のようなたくましさはなく、目を見開いたゼフィラはその力を緩める。
　エイスもゼフィラも前線で戦う戦士である、今のユウでは振りほどくことは出来ないだろう。震えるユウは呼吸を引き攣らせ、瞳をぎゅっと閉じた。
　――処刑されるなら、それでもいい。
　最凶の堕天使に囚われ、自死することも許されず生き長らえている自分だ。
　そんなユウをエイスは一瞬見遣って、短く告げる。
「行くぞ」
「はい」
　ゼフィラが左手に持つペンで、空中に線を描く。天使の羽根で作られた、特定の座標に移動出来るものだ。神力が走ったそのあとに、淡い光を放つ空間が出現して。
　三人は、姿を消した。

*

「お呼びでしょうか、レギー」
　深い闇の中で、その存在は神々しき光を放っていた。
　『それ』は彼のもとに跪いて、そう尋ねる。
「おつかれさま。ユウの行方についてだが……先日、地上に下りたエイスとゼフィラが交戦したそうだ」
「交戦？ユウが裏切ったのですか」
「いいや、違う。彼らの報告によれば……『アイリヴ』と名乗る存在が、ユウを捕らえているらしい。物理的にも、精神的にも」
「……『アイリヴ』？『悪魔』の？」
「そう。あの『アイリヴ』だよ。信じられないよね、あれだけの攻撃を食らって生きているなんてさ」
　堕天使アイリヴ。かつて『悪魔の翼』と呼ばれたその力により天界を支配し、斃された最凶の天使(あくま)。大天使サリエルとしての側面も持つ、珍しい天使。
「どっから漏れたのか、反天帝派の連中がアイリヴをリーダーにしようと血眼で探しているらしいし、本当に馬鹿らしい話だよ」
　レガリアが『それ』の方を向いて、唇を歪ませる。
「なあ、『アイリヴ』」

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