四話 月桂樹の輪 part1 ページ12
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「はぁ……」
ユウは溜め息をつくと、自分の纏っている服を見下ろした。紺色のシャツに黒のスラックス。なんということは無い、ただの服。そのはずである。
これを用意したのはアイリだ。自分のことはなんだって、アイリの気分次第である。ひらひらとしたメイド服やら、この世界の女学生が着るセーラー服とやらを着せられたこともある。アイリはそういう服を着せたがるが、普通の服を用意してくれることもあった。
ユウはその理由を理解していて、これから起こることを思うと気が重い。
彼にとって、女性物の服を来ている時のユウは観賞用らしい。恥じらう姿が面白いとかどうとか言っていた。
そして、普通の服を着せられる時は決まって『食われる』のだ。
――中途半端に絡まってる方がそそるんだよぉ?
のんびりと、以前のように言ったアイリには背筋がゾッとした。
「うう……」
口の端から苦しげな声が漏れる。体の節々が痛み、アイリのことを受け入れていたそこもじくじくと痛んだ。
昨日も失神しても抱き潰されたのに、今日もこういう服を選ぶということは、今夜もアイリに貪られるのである。それを思うと、また溜め息が出た。
ユウは自他ともに認める天界最強の一角だったはずだ。だというのに、今は天界最凶の堕天使であるアイリに囚われている。
知らずに食べさせられた
流石にせーべつは変えらんないんだよねぇ。
楽しそうにそう告げたアイリに、ユウは背筋が凍りつくようだった。さらに彼は「まあ、それでも変わらないしぃ、可愛いからいいんだけどねぇ」と続け、ユウはこれからの事を思うと絶望するしか無かった。
天使としての力は残っている。捥がれた翼も、三対のうち二対は再生していた。しかし、力を使うのにはアイリの許可が必要で、使い方も彼の言葉に沿った方法でしか許されない。当然ながら、天界に帰ることも不可能だ。
物理的には可能である。現在はアイリに言えば外に出ることだって可能なのだから。
しかし脱走するなど以ての外だ。ユウはいつも、外出する際にスマートフォンを渡され、遅くなる時は必ず連絡するようにと言われていた。逃亡を試みたことこそないが、連絡せずに帰りが遅くなったことがある。
あの時のことは思い出したくもない。
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作者名:ゼファー | 作成日時:2021年1月14日 13時