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選手達の介抱をしているうちに、だんだんと其方の仕事に集中していったAは、トレーニングの一日目が終わる頃には大分メンタル面でかなり回復していた。肉体面ではどうかと言えば、一日中走りっぱなしで少々疲れてはいるが。
結局夏油は来なかった。施設に豪快にお邪魔してくる、なんてことがなくて良かったとは思うのだが、自分に会いに来てくれなかったというのも何だか複雑な気持ちだ。
夏油は、Aがまだ幼く封印部屋に閉じ込められていた頃よく会いに来てくれていた。時には勉強道具を、時には絵本や小説を持ってきてくれる夏油が、Aは大好きだったのだ。
10歳を過ぎて封印部屋から解放されてからは、共に呪術の訓練をすることも少なくはなかった。五条や夏油とする組手は大分ヒヤヒヤするが、得られるものもそれ以上に多かった。
目を閉じれば、昨日の事のように思い出すことのできる思い出。しかし、視覚情報以外のものはずっと覚えていられないのだ。現に、夏油がどんな声をしていたかも、夏油の呪力の性質も思い出せない。・・・故に、だろうか。
「や、久しぶりだね。」
自室へ繋がる通路を歩いていた、その時だった。
曲がり角の先に小さな呪力反応があった。呪力感知が得意なAですらも呪霊のものと間違えるほど微弱なそれを発していたのは、以前よりも幾らか歳をとった夏油の姿。
しかしAの目に映る彼の仕草は、以前と全く変わらないように見えた。手を軽く挙げる際の動きも、歩き方の癖も、何もかもがAの記憶と重なって見える。
ぎり、と唇を噛み、拳を握りしめたAは何時でも術式が発動できるよう身構えた。
「(いつ侵入された・・・?誰も殺されてないよね・・・。)」
冷や汗がつうっと頬を伝った。しかしそんな張り詰めた空気の中、夏油はにっこり笑って見せた。
「Aは変わらないね。私のこと、ちゃんと覚えてる?」
ぴ、と己を指さして言った夏油。それは皮肉だろうか。むっとしたような顔をしていれば、夏油はクスリと笑う。
「ふふ、少しからかっただけだよ。子供っぽいところも相変わらずだね?」
相変わらず。Aはその言葉に、仕草とは別に夏油の見た目は大分変わったな、と考えた。あの前髪は相変わらずといった様子だが、昔より髪は長いし何より袈裟を身にまとっている。
「スグルはなんか、胡散臭さ増したね。」
「え、やっぱりそう感じるかい?まあ実際胡散臭いと思われそうなことをしているけれど・・・。」
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さくちゃん - raizさん» ありがとうございます!楽しみに待ってます!! (2023年3月25日 7時) (レス) id: f6f0c24dc1 (このIDを非表示/違反報告)
raiz(プロフ) - 水希さん» コメントありがとうございます、面白いと言っていただけて感無量です・・・!続編はもう少しでできると思います。ソワソワが治まれば() (2023年3月24日 21時) (レス) id: 1aa12f97ac (このIDを非表示/違反報告)
raiz(プロフ) - さくちゃんさん» 返信遅くなり申し訳ありません・・・!続編もう少しでできる予定です、もうしばしお待ちを・・・!! (2023年3月24日 21時) (レス) id: 1aa12f97ac (このIDを非表示/違反報告)
水希(プロフ) - 初コメ失礼します!すっごい面白いです!続編が気になってソワソワしてます!更新頑張ってください (2023年3月23日 18時) (レス) id: 0489471443 (このIDを非表示/違反報告)
さくちゃん - 続編待ってます!! (2023年3月15日 18時) (レス) @page50 id: f6f0c24dc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:raiz | 作成日時:2023年2月25日 21時