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千切がこちらを向く。モニターには潔がゴールを決めた瞬間の映像が映っていた。
試合の分析でもしていたのだろうかと考えていれば、彼は「掃除か?」と聞いてきた。それにこくりと頷くと、再び彼が口を開く。
「じゃあ俺部屋出た方が良いよな、すまん。」
「あ、出なくてもダイジョーブ。こっちはこっちで色々やってるから、チギリはチギリで分析続けてていーよ。」
Aの言葉に千切は「そっか、ありがと。」と返事をしたっきり、またモニターに視線を移した。
取り敢えず、糸師の時と同じように掃除機は使わないでおこう。
そう思い、掃除用具セットから箒を取り出し床をさっさと掃き始める。
すると、それを見ていたのか千切は首を捻って聞いてきた。
「掃除機、使わないのか?」
「・・・?集中したいだろうし、うるさくしない方がいいかなって。」
当たり前のように言ったA。そんな姿に、千切はきょとんとしたような顔を見せたあとクスリと笑った。
「良い奴なんだな、お前。」
「ん?・・・なんかよくわからんけどありがと。」
言葉の真意が上手く理解出来なかったAは少し首を傾げると、褒められているということを汲み取り感謝の言葉を口にした。すると、千切はまた口を開く。
「・・・なあ、俺の話聞いてくれないか?」
今度は少し声のトーンが低い。大事な話だろうかと掃除の手を止めて、Aは千切の方をちらりと見た。
千切は誰かに、しかも女子にこんなことを言うのは初めてだな、なんて考えながらその先を口にする。
「お前はさ、どうやったら潔く夢を諦められると思う?」
「・・・ゆめを、あきらめる。」
Aは、ゆっくりと千切の言った言葉を復唱する。現時点では情報が少なくて答えることが出来ないが、付け足しをするように彼は再び言葉を紡いだ。
「俺、結構前に足を怪我してさ。・・・再発したら、選手生命は危うくなるって。
だから、夢を諦めるためにここに来たんだ。でも、まだ諦める理由が探せずにいる。
もしかしたら・・・潔なら、俺の夢を壊してくれると思ってるけど。」
「・・・。」
千切はそう言いつつも、己の右膝をそっと撫でた。きっと、その右膝が怪我をしたという場所なんだろう。
Aは相談など生まれてこの方された事がない。
しかし、自分の吐いたくさい言葉が誰かのためになるのだろうかと考えると絶対にそうでないと言える。
ならば、その場しのぎの綺麗事でなく率直に思ったことを伝えてみようか。
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さくちゃん - raizさん» ありがとうございます!楽しみに待ってます!! (2023年3月25日 7時) (レス) id: f6f0c24dc1 (このIDを非表示/違反報告)
raiz(プロフ) - 水希さん» コメントありがとうございます、面白いと言っていただけて感無量です・・・!続編はもう少しでできると思います。ソワソワが治まれば() (2023年3月24日 21時) (レス) id: 1aa12f97ac (このIDを非表示/違反報告)
raiz(プロフ) - さくちゃんさん» 返信遅くなり申し訳ありません・・・!続編もう少しでできる予定です、もうしばしお待ちを・・・!! (2023年3月24日 21時) (レス) id: 1aa12f97ac (このIDを非表示/違反報告)
水希(プロフ) - 初コメ失礼します!すっごい面白いです!続編が気になってソワソワしてます!更新頑張ってください (2023年3月23日 18時) (レス) id: 0489471443 (このIDを非表示/違反報告)
さくちゃん - 続編待ってます!! (2023年3月15日 18時) (レス) @page50 id: f6f0c24dc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:raiz | 作成日時:2023年2月25日 21時