四頁目 ページ6
血の匂いは短時間で隠せるようなものではない。
鉄の、腐った、どろどろした匂いは、何十年先でも記憶の裏に残り続けるものなのだから。
廊下には悪あがきで置かれた乱雑に置かれたラベンダーの芳香剤と混ざり、
1時間もいれば気の狂いそうな悪臭が立ち込めている。
ここでこんなに酷いのであれば、あの部屋の中はどうなっているのやら。
換気など到底できないはずだ。
不思議と、恐れは消えていた。
自分はもう人ではないという自覚が、
私に恐怖という感情と引き換えに、彼に対する嫌悪感を催させる。
しかしここまではっきりと彼を嫌いだと言えないのは、濃すぎる出来事に脳が回っていないのか。
彼の犯した『行為』に対しそれまた違う思いを持っているのか。
どちらでも、構わないと思う。
もう遅いのだから。私は少しだけ震えの落ち着いた手で戸を開き、彼の名前を呼んだ。
『シャオロン。少しは落ち着いてくれたかな』
そんな、化け物を見るような目をしないで。
＊＊＊
シャオロンは私の遺物のバッグや上着を抱きしめているだけで、
片付けようとした痕跡は一切見られなかった。彼の服は鮮血に染まっている。
私はその、廃人のような光景を目の前に少し、怒りが湧いてしまった。
何を泣いているんだと、泣きたいのはこっちの方なのに。
だから、言うべきではなかった言葉を続けてしまった。
『シャオロン』
『Aだよ。シャオロンには………こんなこと“できない”って思ってたのにね』
責め立てるような私の言い草に、
シャオロンはボロボロとさらに涙を流し、何度もごめんと繰り返した。返答はしてくれない。
そして長い無言の後。
彼は幻覚だ、と言い始め、私に触れようと立ち上がる。
が、ずっと座っていたからかよろけて倒れ込んでしまった。
その無惨な姿からくる情で、思わず慰めたくなるが、彼のしたことを思い出しグッと思い止まる。
彼はうわごとのようにまた、呟き始めた。
「埋めたのに、ちゃんと、しっかり。」
「何で、あんなのを選んだん。俺の方が、ずっと、前から。好きやったんに」
私は自分が悪くないとは思えない。だからこそ、本心から彼を責められないのだ。
答える前に。……逃げてしまった私の方こそ「罪悪」ではないのだろうか。
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花氷 ベタ(プロフ) - 夢野さん、感想ありがとうございます！ (2022年7月16日 16時) (
レス) id: 728b26bf44 (このIDを非表示/違反報告)
夢野(プロフ) - うわあ好き(？)これからも更新めちゃくちゃ楽しみにしてます！！！ (2022年7月16日 15時) (レス) id: 078c74bdad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年7月16日 14時
