二頁目 ページ4
私は、今から会いに行く『知り合い』に頭を殴られ×んだ。
と言っても私が頼んだというわけではない。
自分が悪くないというつもりはないし、『彼』を肯定するつもりはない。
何も言わずに私を肉塊にした彼の心の底を見る余裕はなかった。
それほど早く物事は進んでしまったのだ。
今でも近づいて行くうちに心臓は激しく音を鳴らし、汗は滝のように溢れ出る。
夢見心地の気分で真夏の太陽を浴びる。紫外線は肌を刺し、異常なまでの汗が落ちる。
地面には跡のひとつもないけれど。大丈夫、もう彼は私に触れられない。
もう一度繰り返そうとしたって、できないはずだ。
＊＊＊
目を覚ましたのは山の奥。荷物は全て無くなっていた。
恋人の写真が入っていた財布も、
両親がくれた猫のピアスも、
友人が誕生日に渡してくれた黄色のピンも全て無い。
最初は焦ったし、殴られた記憶もあったため、恐怖からその場を動けなかった。
が、運良く生き延びれたと最初は思った。
皮肉にも痛覚はあったため、頭が割れるように痛かったからだ。
帰ろう、本能的にそう思い私は体を起こした。昔遊び場所だったそこから家に帰るのは動作もない。
家にはすぐついた。安心感から涙を流しながら、一歩一歩地面を踏みしめる。
重たいドアを開け、靴を脱ぐのも忘れ一直線に恋人に向かった。
そうして思い切り抱きしめようとした瞬間……私は彼をすり抜け、彼は心臓を押さえ、崩れ落ちた。
ここでやっと気づいたのだ、私は『人ではない』と。
＜ど、ドアが勝手に…＞
＜大丈夫？物の怪の類かしら…貴方はもう寝なさい＞
＜心配だな……神主に相談してくるわ＞
愛した人も、愛してくれた人も……私を視認出来なかった。
挙句に果てに、急いできた神主さんには“何かがいる”と言われる始末。
何度もペンを持って手紙を書こうかとも思った。気づいて欲しくて、見つけて欲しくて。
しかし私はもう人ではない。
その時は、その時のために……私の記憶はどうか清純で清浄であってほしい。
彼と両親の意識の中に黒い染みを残したくない。
大それた矛盾を抱きながら、ついに自分はペンを持つことさえしなかった。
私はそのまま、最後に両親と恋人の顔を目に焼き付けてから、開きっぱなしのドアから家を出て、
また太陽の照りつける道を歩いた。
彼に会うために、この悪夢を終わらせるために。
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花氷 ベタ(プロフ) - 夢野さん、感想ありがとうございます！ (2022年7月16日 16時) (
レス) id: 728b26bf44 (このIDを非表示/違反報告)
夢野(プロフ) - うわあ好き(？)これからも更新めちゃくちゃ楽しみにしてます！！！ (2022年7月16日 15時) (レス) id: 078c74bdad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花氷 ベタ | 作成日時：2022年7月16日 14時
