第208話 ページ8
貴女side
過去の話を、一つ一つ紡いでいく
彼は、時折頷きながら相槌を打って
ただただ、静かに聞いていた
話の間に、すぅーと息をすれば
鼻腔を通るのは雨の香り
息を吐き出すと、今まで心にためていたものが
一緒になって吐き出されていくようだった
彼の気持ちを考えたら
とても胸が苦しくなる
出来るのなら、こんな話はしたくなかった
ただ、もう隠していくことは出来なかった
そこまで来てしまったから
そこまで好きになってしまったから…
先程のことで、また過去のトラウマを繰り返すのではないかと
……私って疫病神なのかもしれない
…私といると、また危険な目に
合わせてしまうかもしれない
彼は優しいから…
この話を聞いても、待っていてくれるのだろう
…またこの辛さを味わうくらいなら
…またこの痛みを味わうくらいなら
そう思って、最初で最後の嘘をつく
最悪で最適な嘘をつく───────
冬の寒い日でもないのに
こんなに蒸し暑い夏なのに
その“最後の嘘”を吐くのに
喉の奥がツーンっと痛み出した
好きだからこそ
愛してしまったからこそ
選んだこの選択
…私では彼の隣のヒロインにはなれなくて
最後のラストのシーンは…
私の最後のラストのシーンは
甘いラブシーンではなくて
雨が降り続くラストのシーン
そっと彼の胸に寄りかかると
甘い彼の香水の香りと
優しい彼の温もり
言い出すのが更に辛くなる
『…江口さんは、ほんと優しいね』
｢そう？｣
『うん』
｢雫さん限定かもよ｣
『…それは嬉しいですね』
いつもみたいに
冗談交じりにそんな会話
……こんな時間が続けばいいのに
ぎゅっと拳を握りしめ、
ラストのシーンのセリフを呟く
『…江口さん』
｢…うん？｣
『…終わりにしましょう』
……今彼は、どう思っているのだろうか
｢…そう｣
彼は静かに呟いた
｢……そっかぁ〜｣
私を抱きしめたまま後ろに
仰け反り彼は言う
しばらくの沈黙
雨音が響く
｢……分かった｣
彼はそう呟いた
……これでいい
……これでいいはずなのに
ぐにゃりと視界が歪む
……あれ？
涙が自然にたまって視界が悪くなる
…泣いちゃだめ、泣いちゃだめだ
泣いてしまったら、
彼は優しいから…
また、彼の優しさに頼ってしまう
終わりにすると決めたから…
最後は、
最後くらいは
───笑顔でいよう
そう思って
めいいっぱいに笑顔を作った
『……ありがとう、江口さん』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「声優」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅 - Aさん» Aさん、コメントありがとうございます。・・・好きな場面まで！ありがとうございます。感想を言って下さるのはとても嬉しいです。今後の参考にさせていただきますね。 (2020年11月26日 0時) (
レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
雅 - サチさん» サチさん、最後まで読んでくださりありがとうございました(*^^*) (2020年11月25日 23時) (レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - afterstoryもとっても素敵でした！！個人的に花言葉入ってるのがすごく好きできゅんってしました；； (2020年11月25日 12時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
サチ - こちらこそ、素敵な作品を作って頂きありがとうございました！リクエストした宏太朗くんの話も素敵でした！２人の幸せが伝わる感じでした(^^) (2020年11月24日 0時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
雅 - サチさん» サチさん、リクエストありがとうございました。おまけ話は完結させて頂きました。毎回コメントもありがとうございます。こちらの作品はこれで全て終わりとなりました。今まで読んでくださり大変ありがとうございました。 (2020年11月23日 23時) (レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雅 | 作成日時：2020年10月21日 22時
