第207話 ページ7
屋根から滴る雨水を目で追いながら
彼女が口を開くのを待つ
彼女の髪から滴る水滴をそっとタオルで拭う
『…あの…』
彼女の、ピンクの唇から言葉が零れた
｢…うん｣
覚悟は出来ていた 分かってはいた
……それなのに…
この関係に慣れてしまったせいか
本当は心のどこかで聞きたくはなかった
ぽつりぽつりと彼女は言葉を紡ぐ
まるで、雨が紫陽花の葉に落ちていく様に
大切な人がいたこと
その彼からプロポーズを受けていたこと
彼の誕生日に“あの事”が起きたこと
そして……
彼を愛していたこと──────
何度季節が来ても
あれは夢だったのではないかと
雨が降る度に思って、あの店に通って…
『…分かってはいたんですけどね。そんなことしても…彼が帰ってくることはないって』
…分かってはいたのに…
馬鹿ですね、私
と、赤く目が腫れた顔で笑顔を作り笑う
そんな姿や話を聞いて
苦しくなった
『…ただ、忘れられなくて』
居なくなってから気づくってなんて悲しいものですね、って彼女は呟く
『…一度愛されてしまったら、愛してしまったら…どうしても忘れるなんて出来なくて』
…ごめんなさい
そう彼女は呟いた
『…そんな時に、貴方に出会って』
『…好きになってしまったから』
ふわりと生暖かい夏風が
彼女の栗毛色の髪の毛を揺らす
『…だから、苦しかった』
『貴方に嘘をつくことも、“彼”を裏切っているのではないかって思うことも両方』
ずるいね、私
って彼女は言う
彼女の謝罪はきっとこの事で
そんなことないよ って彼女に言ってあげてたら
もっとお互いに言い合えて、分かち合えたなら
今みたいな謝りの言葉なんて聞くことはなかったのだろうか
『…それでも過去って残酷でね？』
『今でも思い出してしまうから……』
『さっき、本当に怖かった』
｢…ごめん｣
『本当に無事でよかった』
｢うん｣
『…また、あんな事が起きたら
そしたら今度こそ私は神様を恨んでしまいそう』
彼女は俺の胸に寄りかかる
そんな彼女を俺はそっと支えた
『…江口さんは、ほんと優しいね』
そう彼女は言う
辛そうに、悲しそうに彼女は言う
｢そう？｣
『うん』
｢雫さん限定かもよ｣
『…それは嬉しいですね』
いつもみたいに
冗談交じりにそんな会話をして
早くいつもみたいな笑顔がみたいなって
そう思う
『…江口さん』
｢…うん？｣
『…終わりにしましょう』
俺の胸の中で彼女は呟く
その時だけは
雨音が邪魔してくれればよかったのに
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雅 - Aさん» Aさん、コメントありがとうございます。・・・好きな場面まで！ありがとうございます。感想を言って下さるのはとても嬉しいです。今後の参考にさせていただきますね。 (2020年11月26日 0時) (
レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
雅 - サチさん» サチさん、最後まで読んでくださりありがとうございました(*^^*) (2020年11月25日 23時) (レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - afterstoryもとっても素敵でした！！個人的に花言葉入ってるのがすごく好きできゅんってしました；； (2020年11月25日 12時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
サチ - こちらこそ、素敵な作品を作って頂きありがとうございました！リクエストした宏太朗くんの話も素敵でした！２人の幸せが伝わる感じでした(^^) (2020年11月24日 0時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
雅 - サチさん» サチさん、リクエストありがとうございました。おまけ話は完結させて頂きました。毎回コメントもありがとうございます。こちらの作品はこれで全て終わりとなりました。今まで読んでくださり大変ありがとうございました。 (2020年11月23日 23時) (レス) id: ff32d91f5a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雅 | 作成日時：2020年10月21日 22時
