雨音シンドローム IV

第184話 ページ34

｢…俺じゃ力不足みたい｣

困ったように力なく笑うパイセン

なんだかそんな顔を見ていると辛くなってきた

｢俺じゃ、泣かせちゃうからさ｣

店内のBGMにかき消されるくらい小さな声で
いつもみたいな大きな声ではなく小さな声で
パイセンは独り言か分からない呟きを零す

…まるで自分に言い聞かせるみたいに

だから僕も気がついたら黙るしか出来なくて

｢雨をやませる方法…俺知らないからさ。
じゃあせめて…
隣で一緒に居てあげたいじゃん？｣

パイセンが言葉をこぼす度に
チクチクと胸が痛んだ
まるで自分のことかのように

｢…いひひ、かっこ悪いね、俺｣

いつもみたいに笑う江口さん
そう呟く江口さんの背中はなんだか
寂しく思えた

…それでも…それでも僕は、
そんなパイセンをかっこ悪いとは
1ミリも思わなかった────


｢あ、ごめん、トイレ｣

そう言ってパイセンは席を立つ
待ってる間何気なく外を見た

あ〜…暑そうだな

見事に晴天、絵に描いたような青空

先程の江口さんの言葉が蘇る
こんなに綺麗な青空なのに
こんなに太陽が輝いているのに

僕はそんなことを思いながら
ボーッと流れる雲を見つめていた

｢あ、ごめん、ごめん。そろそろ行こっか｣

｢そうですね｣

…思いのほか長居してしまった
慌てて席をたちカバンから財布を用意する
そのままパイセンとレジに向かう

｢…あれ｣

パイセンはレジを通り過ぎる

｢パイセン〜お会計｣

｢うん、いいから｣

…え、まさか！

｢まさかパイセンさっき！｣

トイレに立つふりして支払いをしたのだろう

｢え、僕払いますよ〜！いくらでした？｣
財布を開けてお金を出す

｢いいから〜｣

｢……えっ｣
｢ごちそうさまでーーす！｣
｢…払う気無かったでしょ笑｣

そう、いつもの流れ
1度も出したことがない

｢？そんな事ないですよ〜いくらでした？｣

｢要らない笑｣

…ほんと優しいな〜パイセンは

しばらく歩くと、とある曲がり角でパイセンが
｢じゃ、俺こっち｣
と僕の行く先の反対の道へ

｢え？｣
確かこの後の仕事はまだ時間あるし…
現場一緒だし…

｢買い物ですか？僕も行きます〜｣
｢だーめ｣
｢え、なんでですか？｣
｢なんでも｣
｢…今日はちょっと用事あるの｣
｢…そうですか。残念ですー｣

また数時間後

そう言ってパイセンと僕は別れた
反対側の道を向かうパイセンの背中を
振り返り見つめた

そして、なんとなく
どうかあの二人が幸せになりますように
と後輩ながら心の中で願ったのだった

第185話→←第183話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す