雨音シンドローム IV

第176話 ページ26

｢……本当にそんなんでいいの？｣

“江口さんの一日を私にください”

悩んだ挙句に彼女から出た言葉

全くの想定外で一切考えてなかった言葉

『…はい』

やっと落ち着いてきた顔をそっとあげると
ニコニコと笑っている彼女

やっと見てくれた〜

なんて笑う彼女だが、
それだけで胸が苦しくなる

｢あのさ、もっと欲張りなやつでもいいんだよ？時計とかさ、鞄とかさ……色々あるじゃん？｣

『う〜ん』

『でも…』

｢でも？｣

『私にとって今1番欲しいのはこれかな〜』

……嗚呼、完敗だ

｢……なにそれ、可愛すぎ｣

『ふふっ、超有名人さん、一日頂けますか？』

｢……喜んで｣

『それはそれは…
楽しみな誕生日になりそうです』

｢そりゃ〜よかったね｣

……あまりにも彼女の可愛さに完敗

まさか、こっちから仕掛けようとしたら
逆にやり返された気分

｢…あ、泊まっていっていい？｣

『その気できたでしょ〜』

なんて言いながらちゃんと俺のお泊まりの用意をする彼女

『江口さんしか来ないから、いつもここにある〜』

そう彼女がいる場所には
俺がよく借りてる寝巻きと
その他もろもろ…

その言葉だけで、彼女と会うのが
久しぶりの俺はニヤついてしまう

｢え、なになに、常に用意しててくれたの？｣

『常連客さんですからね〜』

｢そこはさぁ〜彼氏さんがいいんだけどぉ｣

っていう冗談な不満をこぼす

『そのうちね』
｢そのうちって笑ちょっとぉ〜？｣
『あはは』

夏の深夜に笑い合う
ある意味近所迷惑だろうけど

…大切な時間なんだ 今だけは許して欲しい
俺と彼女はこういう時しか会えないのだから

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｢え、寝ないの？｣
『え、寝るの？』
｢いや、寝るでしょ｣
『寝るのかぁ…』

風呂から上がって、俺がいつも通り
ベットに向かい
彼女の隣に潜り込んで早々そう言われる


｢んねぇ〜なんでちょっと嫌そう｣
『ふふっ、嘘、嘘。冗談』

くすくす笑う度にふわりと香る
同じシャンプーの香り

なんだか照れくさくってお互いに背中合わせ
手を伸ばせばすぐの距離なのに

『なんだか修学旅行みたいですね』

懐かしいなって嬉しそうにはしゃぐ彼女

｢ねぇ〜｣
『はい？』
｢本当によかったの？誕生日プレゼント｣
『えぇ、勿論』
｢俺なんかの休みよりさぁ…もっとさ｣

『なんかじゃないですよ』

｢…え？｣

思わず振り返れば彼女もこちらを向いていて

自然と向かい合わせになる

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