第63話 ページ13
『…梅原さん、それ…』
俺が雨でうっすら濡れた紙袋から出したもの
それは───
真っ赤な花
『薔薇の…花束…』
『綺麗…かすみ草も散りばめてある』
素敵な花束ですね、って彼女は笑う
…じゃなくて
「…紬さんに」
『…え？』
「言ったでしょ、俺からの宿題だって」
『…え…』
そう言って彼女は花束を見つめた
「…ちょっといい？」
そう言って俺は彼女の耳に触れる
『…えっ───』
彼女耳に触れた理由
俺はゆっくりと彼女の耳から補聴器をとる
…初めてあった時と同じ
言葉を“贈る”彼女と
言葉を“伝える”俺
伝え方は違くても────
『あっ、えっ、…梅原さん、その』
それがないと聴こえなくて、と
彼女の“伝え方”と俺の“伝え方”は違くても
言葉を誰かに届けるってことは一緒だから──
彼女の肩をぽんぽんと叩き、自分を指さす
『梅原さん…？』
「…1回だけしかしないから」
ゆっくりと、口の動きが分かるように俺は喋る
足元に居た“彼”が何事かとぴくりと起き上がる
…流石、主人に従順じゃん
『…1回だけ…？えっと…』
俺はゆっくり自分を指す
『…？』
もう一度ゆっくりと指す
『…あっ！手話！』
俺は静かにこくりと頷く
花言葉の本の他にもう一つだけ────
あの時買った一冊の本
それは手話の本────
『凄い！勉強なさったんですね！』
そう彼女は無邪気に喜ぶ
そして俺はまた最初からゆっくりと自分を指す
『私は…』
俺は小さく頷く
そして、彼女を指す
『えっと……あなたを』
俺はまた頷く
右手の親指と人差し指でL字になる様開き
顎の下、首あたりに持っていく
『……』
そして、ゆっくりと前斜め下に引きながら
指を閉じた────
『……えっ、』
そうして俺は彼女に再び花束を差し出す
赤い、真っ赤な薔薇の三本だけの花束
彼女が大好きなかすみ草を添えた花束
彼女は交互に花束と俺を見た────
『……う、そ…』
彼女にまた補聴器をつけてあげる
「…どう？答えでそう？」
俺を見つめる彼女
その瞳にはじわりと涙がたまる
『……ええ』
『…今すぐにでも答えてもいいですか？』
「ぐちゃぐちゃじゃん、顔」
どーぞ、と俺は言う
微笑みながらぽろぽろ涙を流す彼女
そして俺に宿題の答えを返した
『…梅原さん、』
『私も大好きです────』と
…赤い三本の薔薇の花言葉
『貴女を愛しています───』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 73人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「梅原裕一郎」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雅 - サチさん» サチさん、お久しぶりです。いつもありがとうございます。番外編も宜しければ(*^^*) (2021年12月3日 23時) (
レス) id: 62c9195d0c (このIDを非表示/違反報告)
サチ - お久しぶりです。西山さん、何やら新しい出会いですかね？楽しみです😊 (2021年12月1日 8時) (レス) @page17 id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
雅 - サチさん» サチさん、いつもコメントありがとうございます。お久しぶりです。返信遅くなりすみません。こちらの作品も最後まで読んでくださりありがとうございます。また、何かの機会に読んでくだされば嬉しいです。いつも本当にありがとうございます。 (2021年9月24日 0時) (レス) id: 6254493976 (このIDを非表示/違反報告)
サチ - 完結おめでとうございます！タイミングがなく、なかなか読めていなくて、完結に焦りました！でも、すごく素敵でした！本当にほっこりするお話しをありがとうございました！ (2021年9月18日 1時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雅 | 作成日時：2021年8月11日 21時
