episode42 再開 ページ45
後半戦が始まる。
互いにメンバー交代はない。
三国はゴール前で、センターサークルの方を見つめる。
倉間からのキックオフで試合開始だ。
他に出す場所もないため、倉間は大空へとパスを送る。当然彼は相手ゴールへと向かっていくが、前半動かなかった者たちに動く様子はない。
大空、西園、松風は上がっていく。
3人であるものの、パスを上手く使い、時には大胆なドリブルで攻めていく。
松風にパスの練習をしておけ、とは言ったが、想像以上のスピードで上達している。
ーーちゃんと練習してたんだな、あいつら。
ただただガムシャラにボールを追いかけるその後ろ姿に、幼い頃の、昔の自分が重なる。
『天馬君って、サッカー始めたばかりの太一とそっくりね。』
そうだ、自分だって小さい頃はそうだった。
サッカーが好きだから、時間も忘れてひたむきに練習していた。
上手くなるのが楽しくて、勝てるのが嬉しくて、負けたら悔しくて、練習の時間は増えていった。
そうしたら、もっともっと上手くなっていって。
サッカーが好き。楽しい。上手くなりたい。
好きだから、勝ちたい。
どうして当たり前に持っていたその気持ちを忘れていたんだ。
違う。忘れていたんじゃない。
逃げていたんだ。当たり前が欠けた世界になって、その気持ちを持ったままではしんどいだけで。
「勝利の女神…」
控え室で呟いたその言葉を繰り返す。
忙しかった母親が時間を取れるようになって、試合を観にくることが増えた。
余計に負けたくなくて、いつも以上に必死で、母が見にきてくれた試合は毎回のように勝っていた。
チーム内でも、母が見にきた時には必ず勝つというジンクスが生まれて。
あの時からずっと、自分にとっての勝利の女神はーー
今もここで、勝利を運んでくれる存在が試合を見てる。
どうすればいい？
「答えなんて…最初から決まってたんだな」
心に風が吹いてくる。
今初めて、目を逸らし続けてきたものに向き合えた。
そんな気がした。
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作者名：成瀬ひかり | 作成日時：2020年9月14日 14時
