episode24 ページ27
七海がそう問うてきた。理由なんて、彼も同じだと思うのだが。それが顔に出てたのか、訂正された。
「あーすまん、聞き方が悪かったわ。
思ったの？っていうか思えたの？の方がいいかな。
入学式の日に大好きなサッカーで、あんな、…今日言ってたみたいなことされて、怖くなかった？」
怒っているのか、心配しているのか、なんだかよくわからない表情で七海はそう言った。
「怖くは、なかったかな。」
そう、不思議と怖さは無かったのだ。
それよりも自分に嘘をつくことの方が怖かった。
それに。
『こんなの…サッカーが泣いてるよ！』
「サッカーが泣いてる、って思ったから。
大好きなものがずっと泣いてるなんて、そっちの方がずっとずっと嫌だ。」
「サッカーが、泣いてる…？」
七海は不思議そうな顔で考える。サッカーを人間のように言う松風の言い方は、イマイチ理解できないのだろう。
「うーん、よく、分かんないけど…
松風君にとって、サッカーは友達ってこと？友達が傷ついてるから、自分を犠牲にしても守りたい？」
「ちょっと違うような…」
サッカーのために自分を犠牲にしているとは全く思わない。本当のサッカーをすることこそが松風の望みだから。
犠牲にしてるわけじゃない、自分の好きでやっているのだ。
サッカーが友達、というのは合っている気がするが、
「友達でもあるし、命の恩人なんだよね。」
「命の恩人？」
「うん。信助には話したんだけど、俺、小さい時は沖縄にいてさ。
木材の下敷きにされそうになったことがあって、そのとき炎のボールが木材を壊してくれたんだ。
誰かは全然分からないんだけど…とにかく、その人とサッカーボールが俺を助けてくれた。」
そう、サスケーー今俺が飼ってる犬、を助けようとした時だ。
あの人に憧れて、こうしてずっとサッカーをしている。
「ホントの意味での命の恩人、なんだな。
いつか会えるといいな、その人。」
七海は感慨深そうにそう言った。
その言葉が嬉しい。
「うん！きっとどこかでホーリーロードを見てくれてるんじゃないかなって。」
そうであってくれればいいな、と思いながら。
「ていうか結局、何での理由はよく分からねえわ。まあ、いいか。」
「上手く説明できなくてごめん…」
「いや松風君は悪くないから。そもそも理由が何であれ、大事なのは今こうして戦ってることだからな。うん。さっきの質問は無粋だった。」
何のフォローか、可笑しくて笑ってしまった。
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作者名：成瀬ひかり | 作成日時：2020年9月14日 14時
