episode19 3人の練習 ページ22
結局ミーティング後の練習に残ったのは、松風・信助・七海の3人だけだった。
「いやー、松風君ドリブル上手いな…。上手いこと体勢崩したし絶対取れたと思ったのに。」
七海がブロック、松風がドリブルに入り、なんとか抜くことができた。
彼もさすがは経験者、そう簡単には抜かせてくれない。
「小さい頃からドリブルだけはずっとやってたんだ。サッカーをする友達はいなかったんだけどね。」
それでも褒められると素直に嬉しいし、照れる。
ずっと1人だったからこそ、今こうして誰かと一緒にサッカーをできることが嬉しい。
ーー先輩たちはどうするんだろう。
「そうなんだ？人懐っこいうえ明るくて友達多そうなのに。意外。
よし、信助君！2vs1だ、コイツのボール奪うぞ！」
「オッケー！やるぞー！！」
「えっ？あっ」
脳内をすぐ切り替えられずあっさりとボールを奪われてしまった。
流石に不意打ちは卑怯か、今のは無しで、と七海と信助は笑う。
「でも2vs1の練習はした方がいいんじゃない？先輩たちがあんなんだから、11人で戦えるとは思えないよ。
それに、キャプテンはどうするんだろう…」
信助はその笑顔を曇らせた。
どうしても練習に集中しきれない。
松風もそうだ、直接話題に出されたわけでもないのに先輩たちのことを思い浮かべていた。
「そうだな。もしキャプテンまでダメだったら3vs11だろ？
オフェンスはまだパス回しとかでどうにかできるかもだが、ディフェンスがきついな。回されれば手の出しようが無いし、三国先輩がフィフスセクターの指示に従うって言ってるんだ。
シュート打たれたら終わりじゃねえか。」
七海も信助の意見に便乗し、吐き捨てるように言った。その表情は暗い。
思うことは皆同じだ。
「栄都戦と違ってまだ2点だから、逆転はできるかもしれないけど…。僕たちが1点決めた時点で、指示なんて相手も無視しちゃいそう。」
ーーどうしたら、いいんだろう。
その後も練習は続けたがあまり身は入らなかった。
そのため少し早めに切り上げ、今日は1人で帰ることにした。
今日こそ残らなかったもののーー神童は勝つためのサッカーをしてくれると松風は思っている。
本当は勝ちたいと言ったその言葉に嘘はなかった。
そして、サッカーを心から愛している神童はきっと、『自分のサッカー』を裏切らない。
でもそんなの、みんな同じだ。
他の先輩たちだって勝ちたいに決まってるし、サッカーを好きだ。
ーーなのに、どうして。
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作者名：成瀬ひかり | 作成日時：2020年9月14日 14時
