我が身をつねって【冨岡義勇】

捌 ページ8

「それでこの羽織はどうして半分ずつなのですか？」



羽織の袖口を縫いながら、団子を頬張る冨岡義勇に質問する。

最近は聞けば返してくれる冨岡も、なにも返してこない。




「言いたくないのであれば、無理には聞きません。ただ、特徴的で珍しいものですから、なにかこだわりがあるのかと気になってしまって」



ほつれていた箇所はさほど大きくはなく、もう後は糸を結んで切るだけだ。




「とても手入れされていて、大切にされているんですね」



パチパチ、と裁縫鋏(さいほうばさみ)が糸を切る音をさせる。
しつけのために刺していたマチ針を取り、少し掲げて縫い目を確認する。




「できましたよ」

「…かたじけない」



"ありがとう"ではないけれど、なんとなく冨岡さんが考え込んでいる気がしてその言葉で許してあげることにした。



「では冨岡さん、報酬のお団子を頂きますね」

「…ああ」



冨岡は渡した半々羽織をジッと見つめている。
縫い目は綺麗で目立たなかったし、気に食わないという顔ではない。




「ここのお団子は本当に美味しいです！」

「…………形見だ…」

「………そうですか…」



恐らく、その羽織の半分ずつを着ていた人物がいるのだろうと推測する。
冨岡は大切な人を少なくとも2人失っているのだ。








「冨岡さん、お団子を食べている最中に言うのもあれなのですが……今我が家には鮭と大根があります。夕餉(ゆうげ)を食べて帰られませんか？」




「…いただこう」




彼はそういうと、手に持っていた半々羽織をバサッと広げると、袖を通した。

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