我が身をつねって【冨岡義勇】

肆拾肆 ページ44

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私の目の前から、竃門炭治郎が消えた。
いや、一瞬にして鬼の間合いに入り込んだ。




(速い…っ！一瞬見失った…！)



「失われた命は回帰しない、二度と戻らない。生身の者は鬼のようにはいかない。

なぜ奪う？なぜ命を踏みつけにする？
何が楽しい？何が面白い？命を何だと思っているんだ。どうしてわからない？どうして忘れる？

人間だったろうお前も、かつては痛みや苦しみに踠(もが)いて涙を流していたはずだ」




アレ(・・)は誰だ。
確かに竃門炭治郎の姿形をしているのに、発する言葉はなにか違い、なによりも、いつも彼が漂わせる優しい穏やかさを"感じ"ない。




「なに……？一体どうなってるの…？」



私は混乱する自分自身を落ち着かせようと声を出して自問自答する。




ドゴッ


鬼は竃門炭治郎にイラついたように自らが踏みしめる家の屋根を殴る。



「五月蝿いわね…昔のことなんて覚えちゃいないわ。私は今鬼なんだから関係ないわよ！
鬼は老いない！金も必要ない！病気にならない！死なない！なにも失わない！

そして美しく強い鬼は…なにをしてもいいのよ」


「わかった、もういい」




鬼の言葉を聞いて竃門くんは鬼に突っ込んむように真っ直ぐ走り出す。



「血鬼術 八重帯斬り」

「ヒノカミ神楽 灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)」




竃門くんに襲いかかっていたいくつもの帯は、燃えるような斬撃によって全て斬られる。

さっきまで刃が立たなかった上弦の鬼を、竃門くんは1人で追い詰めている。



刀が鬼の首を捉える。
だが、首は柔らかく硬い帯へと姿を変え、切ることは出来ない。





「待って…」



竃門くんは尚も斬りかかる。



「呼吸が…」



迫り来る帯を全て投げ払い



「竃門くん……」



帯を束ねて去(い)なす



「竃門くん……」



竃門くんの日輪刀は再び鬼の頸を捕(と)らえる





「炭治郎！息をして！！！！！！」
"お兄ちゃん息をして！！！！！"




誰かの声と私の声が重なった気がした。

刀は頸を切ることなく空を斬り、竃門くんは途端に崩れ落ちる。限界なのだ。


咳が止まらない竃門くんに、呆気にとられている暇はない。




私は鬼の首に向かって壱ノ型で斬りかかった。


帯化して防ぐ暇もなく、鬼の頸は斬れる。





(おかしい……弱い……速いだけで…)




賜(ともわ)れ頸は斬った。




「竃門くん！大丈夫ですか！！」

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