我が身をつねって【冨岡義勇】

肆 ページ4

「意外ですね」



目の前の眉目麗しき彼女は私にそう言葉を投げかけた。
机の上に、コトッと湯のみが置かれる。
程よく湯気の立つそれを私は両手で包みこんだ。



「そうですか？存外彼は、あなたが思うよりも悪い方ではないと思いますよ？…しのぶさん」

「私は冨岡さんが悪い方だなんて思ってませんよ？」



彼女も同じような湯のみを持ちつつ、私の向かいの席に腰を下ろす。
ここは蝶屋敷、目の前の胡蝶しのぶとは割と仲は良い方だと思う。



「悪い方だと思ってないという割に、随分と冨岡さんのことを嫌煙(けんえん)されてるじゃないですか…」

「そんなことありませんよ」



しのぶさんはお茶を一口すするとニコッと微笑む。
これ以上は愚問(ぐもん)かと思い口をつぐむ。



「まぁ確かに…最近のAさんに対する冨岡さんは、他の柱や鬼殺隊員に対するものより幾分(いくぶん)かマシだとは思いますが……」

「ええ、彼は口下手……、言葉が足りないだけで、優しい方だと思います」

「Aさんは、冨岡さんのことが苦手だったのでは？」

「その認識は少し前のものです」



今度は私が少し冷めたお茶をすする。
熱すぎるものは苦手だ。決して猫舌というわけではない。




「なにがきっかけなのですか？私はそれが気になります」



しのぶはそういうと、再びお茶をすすり先程の何倍も良い笑顔で微笑んだ。


私は思い出す。
彼が鬼と化した少女とその兄に当たる少年に慈悲を見せたことを。そして、少年に"妹を元に戻す近道"を…育手(そだて)への道を示したことを。


だがしのぶは柱だ。隊律には厳しい。
自身も隊律違反に関与しているということをみすみす教えるわけにはいかない。






「ただ少し、彼の人間味溢れる優しさというものを見かけてしまっただけですよ」

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