我が身をつねって【冨岡義勇】

拾伍 ページ15

「離してください…」



私は後ろを振り向かずに、私の腕を掴む人物にそう言った。
心の臓はバクバクと音を立てて鼓動が早くなり、顔に熱が集まる。
症状が重くなっていると感じた。




「俺は何か…してしまったか？」

「いいえ、してません」




腕を振り払おうと試みるも、存外に彼は本気で私の腕を掴んでいるらしい。離れない。



先程、柱合会議が終わった後

「今日はもうすぐに帰ります！今日はもう皆さんと話しませんから！(時透くん以外)。今日は！」

と言ったはいいものの、言った瞬間、時透以外の柱全員があろうことか、冨岡義勇の顔を一斉に見た。



何が何だかわからない冨岡義勇は、一瞬だけ柱たちの顔を見渡し、最後に私の顔を見た。



目があった瞬間また胸がズキっとして大袈裟に視線を逸らしてしまった。
逃げるように退室したのに、冨岡は意外にも追いかけてきたというわけだ。





「ならなぜ柱達は俺を見た。俺に原因があるからなのだろう」

「違います！あれはあの人たちが勝手に！」

「何か怒っているのなら、俺が原因でなくとも話せ」

「なんで冨岡さんに話さないといけないのですか！」


「好いた女がなにを思っているのか知りたいのは当然だろう」

「だからって全部話さないといけな……い………………好いた…女…？」





振り返る。冨岡はいつもの無表情だ。
目があった瞬間、またあの症状が押し寄せる。




「好いた女って…誰ですか…」

「お前だ」

「お前って誰ですか…」

「Aのことだ」




名前を呼ばれた瞬間心臓が爆発するのではないかと思った。自身の心臓の音が嫌なほど聞こえる。

冨岡はなおも涼しい顔で当然だろうというかのごとく、視線を逸らさない。





「それは……それは、えと…つまり冨岡さんが…私に…」

「惚れている」




少しの沈黙。



「…いつですか？…どうしてですか？人はどうなってその人に惚れていると思うのですか？私には…私にはわかりません！」



冨岡はその言葉に掴んでいた手を離した。
八つ当たりだ。完全に八つ当たりだ。




「皆(みな)が同じかはわからない。ただ、ただ俺はお前とこれからも同じ時を過ごしたいと思った。
会えなくなるのは、イヤだと思った」





"冨岡さんに会わなければその症状は出ない、万事解決ですね"

"それは…イヤです！"



目を見開く。ストンと胸にあった苦しいものが流れていった気がした。





「冨岡さん…___________」

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