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「………。」
「………ふっ。」
「…、なんで笑うんですか。」
「いや、真剣に見てんのかあいいなあって。」
元々そういう職業だったわけだし仕方がないけど、息を吐くようにそういう甘い言葉が出てくるのはどうにかならないのだろうか、このたらしおじさん。
「だって可愛いじゃないですか。」
「んー…見てるものがちょっと特殊だけどね。」
「…？そうですか？」
スカイツリー近くの水族館に来て私が眺めているのはエイ。空を飛ぶように水中を泳ぐ姿と、フォルムがなんだか可愛くて小さなころから好きな生き物。一番好きなのはマダラトビエイ。模様まで可愛いから。
「もっとこう…ペンギンとか、イルカとか、水族館のアイドル的な存在が好きで選んだのかなって勝手に思ってたわ。」
「久しぶりにエイが見たくなっただけですね。」
「んははっ。じゃあ、今度は秘書もそうだけどエイのことも教えてもらおっかな。」
秘書は私が教える事確定なんだろうか…。まあ、取得に意欲があるのなら、それに越したことはないんだけれど。時間もあることなので館内をゆっくり回ってから、寄ろうよと彼が言って入ったのはお土産屋さん。せっかくなら会社の皆さんにも何か差し入れを…と涼しげなゼリーを手に取ったらひょいと横から奪われる。
「その役目は社長に譲ってよ。いつもAちゃんばっかり頼っちゃってるから、たまにはいい顔させて。」
ああもう、これだからこの人は。甘くて、優しくて、どんどん好きになる。
レジに並んだ彼が戻って来たときには何やら大きな袋を抱えていて。ゼリーを社員分かっただけだとしたら、大きすぎる。
「……どれだけ何を買ったんですか。」
「それは帰ってからのお楽しみ。」
帰宅しても彼は袋を自室に持って行ってしまったから何を買ったのか分からなかったけど。お風呂から上がって自室でストレッチをしようとしたら、何もない殺風景な部屋の真ん中に居座っていたその子。
「…ばか。本当に、ばか。」
彼がお風呂から上がってきたら抗議しようと決意しながら、マダラトビエイの大きなぬいぐるみを抱きしめた。
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作者名：しぅ
| 作成日時：2022年9月2日 15時
