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恋心を忘れたわけじゃない。
Aを好きな気持ちは今でもしっかり持っている。

彼女と翔太と過ごしてきた思い出もちゃんと残っているのに、Aと恋人として過ごした思い出だけが抜け落ちてしまっているらしい。実際、どちらが告白したのか、どこへデートへ行ったのか、同棲していたのか…何も思い出せない。

おそらく、俺たちの関係性を1番近くで見てくれていた、心配性の翔太が怒るのは当然。むしろ怒られるべきことを俺はしてしまったわけだ。



「涼太だって忘れたくて忘れたわけじゃないじゃん…。」


「…それは分かってる。」



俺が宥めてもなお、翔太に言い過ぎだと伝えたい佐久間が指摘をすると、翔太はバツが悪そうにそっぽを向いた。本人も言い過ぎたとは思っているみたい。



「佐久間が言ってくれた通り、俺は忘れたくて忘れたわけじゃない。でも、不用意に言葉を発してAを傷つけたから、翔太は怒ってくれたんでしょ?」


「……。」



ふいとそっぽを向いたままこちらを見ないのは、照れ隠しだよね。知ってるよ。



「俺も、このままじゃだめだと思ってる。なんとか思い出したいから、佐久間にも翔太にも協力して欲しい。」


「…!!もちろん!俺の知ってる涼太とAちゃんのこと、色々お話する!!」


「ありがとう、佐久間。助かるよ。」



記憶喪失はエピソードを聞いてふいに思い出す…なんていうのも聞いたことはあるし。まずは俺がどうしていたのかを知らなければ。翔太はふいとそっぽを向いたまま呟くように言葉を返した。



「思い出してもらわなきゃ困る。Aのためにも。」



佐久間にはいつもの不機嫌な声に聞こえたかもしれない。俺が思うに、かなり久しぶりに聞いた翔太の泣きそうな声だった。不安やら怒りやら、感情がぐちゃぐちゃで整理がつかない中でなんとか振り絞った一言だったように思える。



……翔太のためにも、早く思い出さないとね。





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作者名:しぅ | 作成日時:2022年1月21日 11時

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