何もないセカイ【赤】 (ページ4)

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涼太の記憶がおかしい。
俺のこともAのことも覚えてる。

でも、自分で贈ったAのつけている指輪の意味を知らない。

それを聞いたAがどれだけ傷つくかなんて、誰にでも容易に想像はつくと思う。10年以上愛し合ってきた相手に突然忘れ去られて、「大丈夫」なんて口先だけで言っても大丈夫じゃないことくらい、分かるから。涼太に同じことを2度も言わせたくなくてそれ以上言うなと遮った。

「あれ、ふっかどっか行くのー？」

「おん。ちょっとAちゃんとお話してくる。佐久間は2人の話聞いてやって。」

「あー、またすぐそうやって人の女の子誑かそうとする～！」

「佐久間、しー。」

ふっかには伝えて、Aのことをお願いした。こういう時に頼りになるのが最年長でリアコ枠のあいつだから。佐久間には話すと余計なことを言い出しかねないと、病室に入って来た時の険悪な雰囲気については何も伝えてなかったけど、何も伝えなくても余計な事しか言わねえな、こいつ…。

「…翔太。」

「んだよ。」

「…もしかして、Aの指輪って。」

「Aちゃんの指輪？涼太、楽屋で俺らにもどれがいいかな～ってめっちゃ聞いてきたじゃん！楽しそうにしちゃってさ！！」

あー、頭が痛い。本当に余計な事しか言わない。

Aが話す昨日涼太が帰ってからの話を聞いていても思うけど、涼太はAに似合うものを探すのが昔から好きで、それは今でも健在である。しかも先日までは指輪、現在はドレスと一生に一度になるものを選んでいるから、いつになく真剣で。楽屋でも俺たちに「あれはどうか」「これはどうか」と毎日のように聞いていた。

「そっかあ…。俺、本当に大事なところを忘れちゃったのか。」

細く呟いた涼太の目からは涙が伝っていた。佐久間は滅多に見せない涼太の様子にあたふたしていたけど、俺はそんなこともお構いなしに涼太に言い放った。

「お前が泣くなよ。泣きたいのはAだよ。
それでも覚えてない涼太の前で泣くのは違うからってさっきまで必死に泣くの堪えてたから、ふっかに連れてってもらったんだよ。」

「ちょ、しょーた、」

「いいよ、佐久間。今回は翔太の言う事が正しいから。」

泣いている相手にも容赦なくきついことを言い放った俺を咎めようとした佐久間を涼太が止める。「涼太が言うなら…」と佐久間も渋々引き下がった。

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