何もないセカイ【赤】 (ページ3)

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「あー。…よし、Aちゃん。俺と一旦外に出よう。」

翔太から耳打ちで成り行きを聞いたらしい深澤さんは、ゆり組同士積もる話もあるだろうしと強引に私を病室の外へ連れ出した。

「とりあえずこういうのは病院の先生に言った方がいいよ。」

そんなアドバイスの元、主治医の先生に病室で涼太が昨日帰ってからのことを覚えていないことを説明した。

「婚約したことも覚えていない、けれど昨日の仕事の記憶はあることを考えると、山下様との思い出だけが抜け落ちた形になっていることが考えられます。」

それが私にとってどれほど残酷な宣言なのか、先生は分かっているのだろうか。怪我の容態を説明するときのようにただ淡々と語るのみ。情は一切挟まないような話し方に「私には関係ない」とばかりの無関心とまで取れてしまって、どうにかしてくれないのか聞く事も躊躇ってしまった。

「記憶喪失って、治ることもありますよね？」

「私は担当したことがないのでなんとも言えませんが、強く印象に残るような場所を訪れたり、過去と全く同じ体験をすることでふと思い出すことはあるようですね。」

私が聞く事を躊躇ったのが分かったのか、深澤さんから先生に質問をしてくださった。可能性はゼロではないが、治るという確証も全くないまま先生の元を後にする。

「あんまり抱え込まないでね。俺らも出来る事はするし、翔太だっているんだからさ。一番Aちゃんと舘さんのことを見てきたのは間違いなく翔太で、翔太だったら舘さんが大切にしてたAちゃんとの思い出も知ってるかもしれないね。」

「はい…。」

深澤さんからは「大丈夫だよ」と声を掛けて頂いたけど、涼太が本当に思い出してくれる確証もない。途方に暮れ、目の前から色彩の感覚が消えるような気さえした。

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