第九話 ページ9
その日は、あの女が中々来なかった。
普段通りその場で丸まってたんだが、ずっと静かなもんだからいつしか瞼は重くなり、うつらうつらと意識が遠のいていった。
夢の中で寝るってのも変な話だがな。
喉が渇く。
口の中が乾燥して、空気もちくちくと肌に刺さる。
周囲の命が残らず崩れ落ちていく。
この感覚は。
俺のユニーク魔法が発現したときだ。
「なんて恐ろしい...」
「全てを砂にする魔法だなんて。」
「もしレオナ様が、ファレナ様を...ああ怖い...」
黙れ。
なんで、なんでなんだ。
なんで、第2王子ってだけで。
お前らはどうせ、たとえ兄貴に“これ”が発現しようが俺を下にするだろうに。
「ファレナ様には優秀なユニーク魔法が発現されたのに...レオナ様は...」って具合でな。
誰も俺に近づこうとしなくなった。
近づいたとしても、怯えているのが丸分かりなんだよ。
俺がユニーク魔法1つすらも制御できないと思っていやがる。
それか、俺がその恐ろしい魔法とやらで反乱を起こすとな。
あぁクソ。
なんでこんなに寒い。
...ふと、ふわりと温かいものに包まれた気がした。
思わずその主を探しても、靄がかかったように見えない。
誰だ、誰なんだお前。
『おはよーございまぁす、チョコちゃん。』
...は？
なんでコイツが。
目を開けた瞬間すぐ近くで覗き込んできた、もはや見慣れてしまったその少女に一瞬ぽかんとして、そして気づいた。
てめぇ、やけにくすぐったいと思ったら勝手に撫でてたな。
『あわ、チョコちゃん怒った！？ごめんて...』
謝るならその撫でる手を止めろ！
ニヤニヤしてんじゃ...
...あぁ、でも。
中々どうして、悪くない気分だ。
恐れも怯えも知らない平和ボケした手が、温かくて心地いい。
こいつになら、別に大人しく撫でられてやっても、いい。
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作者名：來夢 | 作成日時：2023年4月6日 21時
