第十七話 ページ19
あれから、チョコちゃんが路地裏に現れることはなくなった。
1週間経っても、2週間たっても、冬休みに入っても。
いつもの路地裏にはなんの気配もしない。
「ま、野良なんでしょ？チョコちゃんって。」
『...うん。』
「Aの落ち込みようは可哀想だけど、こればっかはねぇ。」
参考書の広がった机で向かい合っているところから、2人は受験勉強をしているのだろう。
どちらもシャーペンは殆ど動いていないのを見るあたり、その進度の方は察せられるが。
『どっかで車に轢かれたりしてないといいんだけど...』
「はい出た過保護。大丈夫だって、猫って意外と賢いから！
ほらほら続き、やるよ！」
軽く頭をはたかれても、Aはぺしょりと眉を下げたまま中々ペンを動かそうとしない。
もし犬耳でもあれば限界まで垂れ下がっていそうな雰囲気に、幾回目かも分からなくなってきた溜息をこっそり吐いた。
ちなみに、この調子で1ヶ月は経っている。
たった3ヶ月余りでどれだけAにとって大きい場所にあの猫は居座っていたのか、よく分かるというもの。
最初こそ本気で心配していた悠も、今ではここまで心に痕を残すあの猫を人間かなんかじゃねーのかと疑いだしていた。
その考察、ほぼ当たりです。おめでとう。
「まったく...世話の焼ける幼馴染だこと。」
『...あ、ごめん、なんか言った？』
「うん、さっさと目標ページやっとけって言った。」
『ぎゃ、すいませんっ！』
慌てて参考書に目を落とすAを見届け、悠もノートを開く。
その会話を最後に、ようやく2人は問題の海に沈んで行った。
夕方、5時頃。
音を立ててシャーペンを置いたAが大きく伸びをした。
悠も力が尽きたのか、隣で倒れている。
『っはーー！やりきった感が凄い...！』
「いやぁ、叩き込んだねぇ...流石に疲れた。」
特に何も言わずとも自然と同じ高校を選んでいた2人の心は一致している。
来年からもお揃いの制服を着れますように。
お揃いの教科書を使えますように。
一緒に登校して、一緒に勉強して、一緒に遊べますように。
願わくば、一緒にあの猫も丸まっていますように。
「Aは、これからもずっとアタシの親友だからね。」
ふと呟やかれたその内容を聞きつけたAは、呆れたように苦笑いを浮かべた。
『何？いきなり。そういうの言葉にするとだいぶ恥ずいぞ？』
「うっさい、言っとかなきゃいけない気がしたの！」
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作者名：來夢 | 作成日時：2023年4月6日 21時
