Valentine's Day

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用事なんて。あるわけないですし。

駅前の本屋さんでパラパラと雑誌をめくる。
なぜファッション雑誌のOLさんはアフター5に着替えるの？普通そうなの？
自分の色気のない服を見てため息しか出ない。

気分を変えようと文庫本の棚を眺める。
恋愛ものの小説ばかり目に付くのはきっとバレンタインデーだから。


久しぶりに見たチャニョルさんの顔が浮かんで
頰が熱くなった。
恥ずかしくなってトイレに駆け込んだけどちっとも赤くなっていない自分。
格好ばっかりじゃなくてこういうところもホント可愛くない。






少しだけメイクを直して時間を確認すると5分前に着信の表示。



嘘！全然気付かなかった！




「あ、すみません電話、気がつかなくて」



『用事もう終わった？
俺ももう終わったから。今どこ？』





まだ20時過ぎ。予定よりずいぶん早い。

駅で待ち合わせるとチャニョルさんが行ってみたい店があると言うので電車に乗った。
隣に立つとおっきいなあって、
また胸がきゅうっとなる。




「教えてもらったばっかでさ」



「そうなんですか」



「最近初めて会った人にオススメの店聞いてんだ」



「へえ」



「それでけっこう仲良くなれるんだよ」





昔一度だけ、聞いてみたことがある。

どうしてよく誘ってくれるのか。




“だってAと食い物の趣味合うから

ほかの子はラーメンとか誘いづらいだろ”




私に女を感じない




端的に言うとそういうこと。



彼の特別なんだ、と思ってた。
なんなら付き合えるんじゃないかと思ってた。
勘違いも甚だしい。
ただただ恥ずかしい。



それからはなるべく好意を感じ取られないように注意する日々だった。
チャニョルさんに気付かれて避けられたりしたら立ち直れない。

ぎゅっと口を結んでほころびそうになる顔を抑えたり、会話中あんまり質問はしないようにしたり。
そうやって気をつける度にやっぱ好きなんだって思って、痛かった。









「あ、あった。ここ」



小綺麗な店内は狭いカウンターの8割方が女性で、ああ、これ女だなってちくりと胸が痛む。




「このお店誰に教えてもらったんですか？」



「ん？取引先の人」



「それナンパだと思われてますよ多分」



「ないない。その子彼氏と喧嘩してて、どうやって仲直りすればいいか相談されたし」



解決したかなあ、なんて小さく笑う。



やっぱり女の人だった。ばか。






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